「冬のイチゴハウスは、午前と午後で環境制御をどう変えたら良いのだろう?」
と考えていませんか?
冬の昼の環境制御といっても、実は「午前」と「午後」では別物です。
午前と午後はそれぞれ考える必要があります。
「え、午前と午後で分けてなかった」と思った方は、ぜひ最後までご覧ください。
この記事を最後まで読むと、ハウスの午前と午後の環境制御が理解でき、光合成を増加させ収穫量を最大化できます。
イチゴの植物生理とは?
まずはイチゴの植物生理を考えてみましょう。
植物生理とは、イチゴの植物としての呼吸や光合成などの生理生態のことです。
植物生理は人類にはまだ不明な点も多い
植物生理は、まだ研究途中の部分が多いです。
今でも「光合成とは?」「葉緑素とは?」のような基礎研究を世界中の学者がしています。
例えば、呼吸や光合成についてわかっている部分もありますが、わかっていない部分もあります。
そのため、植物の生理や栽培について、いろんな論文が発表されていますが、結果が異なる場合も多いです。
諸説あるような状態で、定説が十数年後にひっくり返ることもよくあります。
例えば、昭和時代には「転流は夜に起きている」と信じられていました。
しかし、令和時代には「転流は朝から起きていて夜よりも昼の方が大きい」と言われています。
論文も大切ですが、事件は現場で起きています。
実際の栽培のデータも重視しましょう。
作物や品種、条件により変わる
植物生理は、植物の種類によっても違います。
例えば、施設園芸で環境制御が重要な作物といえばトマトが最も有名です。
そのため、環境制御や植物生理についての話題には、トマトのデータが使われることが多いです。
しかし、トマトとイチゴでは光合成速度や葉面積などが違います。
そのため、トマトの定説がイチゴでも通用するとは限りません。
また、イチゴの中でもいろんな品種があり、品種間差もあります。
同じ条件でも、とちおとめと紅ほっぺでは、結果が異なることがあります。
栽培条件の日射や温度、二酸化炭素濃度などの影響も受け、結果が異なることがあります。
呼吸は一日中、行われている
呼吸は体全体で一日中行われています。
呼吸速度は温度が高いと大きくなります。
呼吸量は葉が多いと増えます。
呼吸量が多いと光合成で生産されたエネルギーが消費されて、もったいないです。
光合成は日射が十分な昼だけに起きる
光合成は光がある昼間だけ起きます。
光合成は午後よりも午前の方が活発なことが多いです。
転流は一日中、起きている
転流は一日中、行われています。
日射を受けてから1時間後には転流が始まります。
転流は昼も夜も起きますが、転流量は昼の方が多いです。
転流により、光合成産物が実や葉、根などの各部位に分配されます。
厳冬期・晴天日の午前の環境制御
では、まずは厳冬期の晴天日で、午前の環境制御を考えてみましょう。
厳冬期とは、12月から2月の期間です。
時刻は8時から12時頃です。
晴天日なので、十分な日射があります。
午前の光:日の出から1時間程度で十分な日射量
厳冬期でも、晴天日なら十分な光の強さがあります。
外張りフィルムや内張りフィルムの透光性に問題がなければ、光合成に十分な日射があります。
午前の植物生理:呼吸が増え、光合成が最も活発、転流が開始
呼吸は温度上昇に伴い増えていきます。
光合成速度は日の出から1時間後に大きくなり、午前中に最大になります。
転流は光合成開始から1時間後から始まり、温度上昇に伴い増えていきます。
午前の温度:日の出前後からの加温で一気に最適化、換気を遅らせたい
しかし、そのときのハウス室温は光合成適温よりも低い場合が多いです。
そのため、日の出前後から加温機を動かし、日の出から1時間後までに温度を最適化させましょう。
具体的には、15〜20℃程度を目標にしましょう。
その後、日射が増えてハウスの室温が25℃程度まで上がります。
それ以降は、ハウスの換気をできるだけ遅らせて、ハウスを閉鎖する時間を長くしましょう。
しかし、ハウス室温が30℃を超えると、高温障害により異常な栄養成長や徒長などの生理障害が発生しやすくなります。
ハウス室温の上限値は30℃程度にしておきましょう。
午前のCO2:夜間の呼吸で高い、700〜1,000ppmで施用
イチゴは夜も呼吸をするので、早朝の二酸化炭素濃度は600〜700ppm程度まで高くなっています。
日の出により日射が入ると、光合成が始まり、二酸化炭素を吸収します。
徐々に二酸化炭素濃度が低くなるので、二酸化炭素発生装置で二酸化炭素濃度を上げましょう。
目安は700〜1,000ppmです。
二酸化炭素を大気中濃度と同じ400ppmにするゼロ濃度差施用もありますが、冬の午前中は高濃度がおすすめです。
理由は冬の午前中が一年で最も環境制御がしやすく、「このタイミングで二酸化炭素を施用しないでいつやるの!?」「今でしょ!」という時期だからです。
逆に、もし冬の午前中に二酸化炭素を高濃度で施用しない場合は、二酸化炭素発生装置は不要なのでヤフオクで売却した方が良いです。
午前の湿度(飽差)管理
午前に日射、温度、二酸化炭素が最適だった場合、次に最適化すべきなのは湿度です。
湿度は飽差を指標に管理します。
午前のハウス室温が20℃のとき理想的な相対湿度は70%、30℃のときは90%になります。
飽差はミストや潅水で制御しましょう。
午前の環境制御のポイント
厳冬期は、光合成が優先順位の1位です。
光合成を盛んにさせることを最優先に考えて、環境制御の設定を決めましょう。
晴天日に光合成を最大化させるために重要なのは、二酸化炭素を高濃度で施用し、その時間をできるだけ長くすることです。
そのために、以下の2点に取り組んでください。
★二酸化炭素発生装置で二酸化炭素濃度を700〜1,000ppmまで高める
★ハウスの換気温度を28〜30℃程度まで上げて閉鎖時間を長くする
厳冬期の午前中が施設園芸の環境制御を行うチャンスです。
環境制御の効果は、厳冬期の午前中にどれだけやるかにかかっています。
厳冬期・晴天日の午後の環境制御
次に厳冬期の晴天日の午後の環境制御を考えてみましょう。
期間は12月から2月で、時刻は13時から16時頃です。
午後の光:最高の強さが徐々に弱まる
正午をすぎると、光は徐々に弱まっていきます。
それでもまだ光合成には十分な日射があります。
日没直前になると、さすがに日射が弱すぎて光合成はできなくなります。
そのため、13時から15時頃までは光合成が十分にできます。
午後の植物生理:光合成速度が午前よりも遅くなる、温度が高く呼吸量が多い
呼吸量は午前よりも午後の方が大きくなります。
理由はハウス室温が午後の方が高いからです。
光合成は午前よりも午後の方が小さくなる場合が多いです。
理由は午後になるとハウス室温が上がり、ハウスを換気しており、二酸化炭素濃度が低いためです。
転流は午前と同じもしくは、午後の方が盛んになります。
午後になると、呼吸量が多くなるので、光補償点が高くなります。
光補償点
光補償点とは、呼吸速度と光合成速度がプラスマイナスゼロになる光の強さです。
午後は光合成速度が下がり、呼吸速度が上がることで、見かけの光合成速度が減少します。
そのため、午前よりは午後の方が光合成産物は少なくなり、重要度が下がります。
ただし、日射が弱くなる日没前までは、光補償点よりも高い光の強さであることが多く、光合成産物はプラスになります。
午後の温度:目標で換気温度を調整、クイックドロップしない方が良い
午後はハウスの換気を行い、目標温度を維持しましょう。
28℃程度がおすすめです。
トマト栽培のクイックドロップ
トマト栽培でよく使われる温度管理技術の「クイックドロップ」はしない方が良いと思います。
クイックドロップとは、夕方にハウス室温を一気に下げて葉の温度よりも果実の温度を高くして、果実への転流を促す技術です。
これは、温度が高い部位に優先的に転流が行われることを利用した技術で、トマト栽培ではよく使われます。
ただし、厳冬期のイチゴ栽培なら果実への転流促進よりも、草勢維持や根への転流促進、夜温を高く保つ方を優先した方が良いと思います。
呼吸と光合成の割合
植物全般の基本的な話としては、「呼吸は光合成の10分の1程度の量しかない」という説があります。
しかし、トマトの場合、「38℃くらいから呼吸量が光合成量を超える」という説もあります。
また、「光合成量が大きい植物は呼吸量も大きい」と言われています。
イチゴはトマトよりも植物体が小さく、光合成量が小さいです。
そのため、イチゴの呼吸量もトマトよりも小さいはずです。
「午後に温度を高めにして、午前中の光合成産物の転流を促進する」という栽培の考え方もあります。
このように、呼吸、光合成、転流、草勢維持、根の成長、夜温維持による燃料費節約などを考慮すると、午後の温度は厳冬期は高めが良いと思います。
午後のCO2:換気して420ppm維持
午後の二酸化炭素濃度は、大気中と同じ420ppm以上を維持しましょう。
二酸化炭素濃度が300ppm以下になると、光合成が著しく抑制されます。
ただし、晴天日であれば午後はハウス室温が30℃以上になることが多いので、換気をしているはずです。
換気をしていれば二酸化炭素濃度は420ppmを維持できます。
午後の湿度:結露予防、灰色かび病対策として加湿しない
午後は相対湿度も考える必要があります。
光合成のことを考えると、湿度は70〜80%程度が良いです。
しかし、湿度を上げるためにミストで散水したり、点滴チューブで潅水すると、夕方から夜間の湿度が高くなります。
夜の湿度が高くなると、結露が発生したり、湿度が高くなり、灰色かび病が発生しやすくなります。
そのため、午後は灰色かび病のことを考慮して、加湿を控えるべきです。
その結果、午後の光合成が最大化しにくくなりますが、病気による出荷ロスを減らす方が重要です。
午後の環境制御のポイント
光合成も大切ですが、草勢維持と夜間の燃料費、灰色かび病対策を優先させましょう。
光合成のことだけを考えても、午後の早い時間帯は呼吸量が光合成量を上回らないと推測します。
トマトは植物が大きいので呼吸量が多く、イチゴの方がコンパクトです。
イチゴは春になると芽数が多く葉も多くなり呼吸量が大きくなります。
しかし、厳冬期ならまだ芽数は少なめで葉も多くなく呼吸量は小さいです。
冬の終わり頃(2月)は春の準備を開始
最後に、厳冬期ではなく、冬の終わり頃(2月)の場合を考えてみましょう。
例として、愛知県豊橋市の2023年12月から2024年2月までの旬別気温を見てみましょう。
厳冬期は12月下旬から2月上旬までで、2月中旬頃から冬が終わり始め、春が始まりかけます。
この冬の終わり頃は、厳冬期とは環境制御の優先順位が変わります。
この頃には以下のような状況になります。
- 日射が強くハウスの換気開始時刻が早くなる
- 二酸化炭素濃度を高くできる時間が短くなる
- 春の過繁茂や花房の徒長を抑えたい
- 夜間の燃料費が小さい
- 灰色かび病の心配が減るが、逆にうどんこ病の心配が増える
そのため、冬の終わりよりも少し早めの2月上旬頃から、午後の温度を低めにするのはアリです。
まとめ 厳冬期の晴天日の午前と午後の環境制御
今回は厳冬期の晴天日の午前と午後の環境制御について解説しました。
昼の環境制御と一言でいっても、午前と午後では環境制御の優先順位や状況が異なります。
そのため午前と午後で環境制御の設定を変えましょう。
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