イチゴの環境制御を考えていると、
「低温のCO2を、イチゴの葉の近くに局所施用したら最強なのでは!?」
と思いつく人がいます。
理由は2つあります。
①二酸化炭素の供給のために熱を発生させなければ、ハウスの閉鎖時間を長くできるから
②群落内の二酸化炭素だけを高められれば、ハウスを換気しながら二酸化炭素を供給できるから
そう考えると、低温のCO2を局所施用するのは、有効な手段です。
実際にそのような商品も販売されていますし、すでに導入している農園もあります。
低温二酸化炭素の局所施用は最強です!
ただし、欠点もあります。
最強な割に、普及率はイマイチ伸び悩んでいるのには理由があります。
この記事を最後まで読むと、低温の二酸化炭素を局所施用するメリットとデメリットを理解でき、あなたのイチゴ農園に導入するべきかどうかを判断できるようになります。
今回は二酸化炭素の局所施用のメリットとデメリットを解説します。
一般的な熱を伴う二酸化炭素の全体施用
まずは、一般的な熱を伴う二酸化炭素の全体施用を紹介します。
灯油やプロパンガスを燃焼した二酸化炭素
一般的な二酸化炭素施用は、灯油やプロパンガスを燃焼させた温かい二酸化炭素をそのままハウスに供給します。
そのため、二酸化炭素を施用すると、ハウス室温が上昇します。
ハウス室温が上昇し続けると光合成適温から外れるので、ハウスを換気する必要が出てきます。
ハウスを換気すると二酸化炭素がハウス外に出てしまうので、二酸化炭素施用を停めます。
このように、二酸化炭素施用に熱が伴うことで、二酸化炭素の施用時間が短くなるのがデメリットです。
ハウス全体への二酸化炭素の施用
一般的な二酸化炭素の施用では、ハウス全体へ二酸化炭素を供給します。
ハウス室温が高くなると光合成適温から外れるので、換気をして室温を下げる必要があります。
しかし、換気をするとハウス内の二酸化炭素がハウス外に放出されてしまいます。
そのため、ハウス全体への施用をする場合は、換気が始まると二酸化炭素の施用は停止しなければいけません。
また、イチゴの株がない通路などの空間にも二酸化炭素を供給するので、ムダが多いです。
低温の二酸化炭素の局所施用
次に低温の二酸化炭素の局所施用の基本的なことを説明します。
二酸化炭素の発生源は、大きく分けて2種類があります。
灯油やプロパンガスを燃焼した二酸化炭素を冷却する方法
灯油やプロパンガスを燃焼し、発生した二酸化炭素を冷却してからハウス内に供給します。
室温と同じ温度の二酸化炭素を供給することで、ハウス室温を上昇させません。
そのため、ハウスの換気が早くならず、二酸化炭素を高濃度で維持しやすいです。
誠和の真呼吸
このカテゴリの商品といえば、誠和さんの「真呼吸」が有名ですね。
https://www.seiwa-ltd.jp/product/1458
加温機の排気ガスを再利用するアグリーフ
少し違う方法ですが、アグリーフという装置もあります。
アグリーフは加温機の排気ガスから二酸化炭素だけを抽出してハウスに供給する機械です。
トマト農園を取材して、こちらの動画で詳しく紹介しています。
生ガスの二酸化炭素を供給する方法
高濃度の二酸化炭素が充填されたガスボンベの二酸化炭素を使う方法です。
二酸化炭素そのものを供給できるので、燃料を燃焼させる必要がありません。
この二酸化炭素は温度が低いので、この二酸化炭素をそのままハウス内に供給します。
CO2局所施用コントローラー「ブレス」
このカテゴリの商品といえば、テヌートさんのCO2局所施用コントローラー「ブレス」が有名ですね。
群落内に散水チューブやダクトで二酸化炭素を供給
二酸化炭素の局所施用には、散水チューブやダクトを使用します。
トマトの局所施用は、こちらの動画で紹介しています。
イチゴの場合も同じ方法でできます。
低温の二酸化炭素の局所施用のメリット
ここからは、低温の二酸化炭素の局所施用のメリットを説明します。
ハウス室温を上げないので換気が遅くなる
二酸化炭素の温度が低いので、ハウス室温を上げません。
そのため、ハウスの換気開始を遅くできます。
ハウスを閉鎖する時間が長くなれば、環境制御を行う時間が長くなり、光合成を最大化できます。
ハウスを換気しながらCO2を施用できる
局所施用なので、ハウスを換気しながら二酸化炭素を供給できます。
イチゴの葉が生い茂る群落内に二酸化炭素を供給できるので、供給した二酸化炭素をイチゴが吸収できます。
通路などのイチゴがない場所へは二酸化炭素を供給しないので、ムダがありません。
低温のCO2局所施用が最強としか思えないが普及率はイマイチ
このように、低温の二酸化炭素の局所施用は最強な方法としか思えません。
実際、イチゴ農園やトマト農園で、この低温の二酸化炭素の局所施用は導入されています。
しかし、最強な割には、普及率はイマイチ伸びていないと思います。
最強なのであれば、もっと圧倒的に普及して、日本中がこの設備ばかりになるはずです。
一般的な二酸化炭素施用機械は駆逐されているはずです。
普及が伸び悩むということは、何かデメリットがあるに違いありません。
低温の二酸化炭素の局所施用のデメリット
ここからは、低温の二酸化炭素の局所施用のデメリットを説明します。
燃焼して冷却する場合は初期費用が大きい
灯油やプロパンガスを燃焼させて温かい二酸化炭素を作ってから冷房して供給する方法は、設備の初期費用が高いです。
そのため、初期費用を抑えないといけない農園では導入できません。
設備の投資対効果を考えると、最強ではありません。
導入する場合には、補助金の活用を必ず検討しましょう。
生ガスはランニングコストが大きい
生ガスをそのまま供給する方法は、設備のイニシャルコストが低いです。
しかし、ランニングコストは大きくなります。
炭酸ガスのガスボンベの価格が高いためです。
燃焼の費用対効果を考えると、最強ではありません。
例えば、バイオマス発電所のような二酸化炭素を大量に発生させる施設がある場合には、その隣にイチゴのハウスを建てることで無料で二酸化炭素を活用できます。
簡易加温として使えない
熱が出ないので、簡易的な加温としては使えないからです。
灯油やプロパンガスの燃焼式の炭酸ガス発生装置は、簡易的な加温機としても使えます。
また、ジェットヒーターも同じです。
1台で2役(加温機と炭酸ガス発生装置)ができます。
例えば、早朝加温や年に数回だけの寒波のときに使えて便利です。
熱が出ない二酸化炭素発生装置は、二酸化炭素の供給しかできません。
風が強いと群落内のCO2が風で飛ばされる
局所施用であっても、ハウスを換気中で風が強い場合は効果が弱くなります。
風が強ければ群落内の二酸化炭素が、風で飛ばされるからです。
特に側窓を開けていると、風の影響を受けやすいです。
700ppmの二酸化炭素を維持しようとしても、強風だと420ppmになります。
群落内のCO2を高濃度に維持しにくい
イチゴの群落内の二酸化炭素を高濃度で維持しにくいです。
CO2は濃度が高いところから低いところに拡散していくからです。
そのため、局所施用しても実際には二酸化炭素は拡散していきます。
群落内の二酸化炭素を高濃度にしようとすると、通路などにも二酸化炭素が漏れていきます。
二酸化炭素は一箇所に閉じ込めておくことはできません。
そのため、「局所に施用」しますが、「局所にだけ高濃度を維持」ではありません。
420ppmのゼロ濃度差なら空気で十分
ゼロ濃度差施用をすれば、ハウスを閉め切っているときに二酸化炭素の飢餓状態は回避できます。
ゼロ濃度差施用とは、大気中の420ppmと同じレベルの二酸化炭素濃度を維持する二酸化炭素の施用方法です。
しかし、二酸化炭素の飢餓状態を回避するだけなら、高濃度の二酸化炭素ではなく、空気の供給で十分です。
局所的に空気を送るだけでも、二酸化炭素飢餓を回避できます。
群落内の湿度が下がると気孔が閉じてCO2の吸収が抑制
群落内に二酸化炭素や空気を供給すると、相対湿度が下がることがあります。
本来、群落内は葉からの蒸散によって、他の場所よりも相対湿度が高いからです。
相対湿度が下がると飽差が適正範囲外になり、気孔が閉じて二酸化炭素の吸収が抑制されます。
二酸化炭素の吸収が抑制されると、光合成が抑制されます。
ただし、イチゴの場合、気孔の開閉はトマトほどは大きな影響は与えません。
まとめ 炭酸ガスの群落内局所施用の利点・欠点
今回は、最強とも思える、低温の二酸化炭素の局所施用のメリットとデメリットを紹介しました。
どんな設備や環境制御にもデメリットはあります。
完璧なものはありません。
実際、いろんな二酸化炭素の供給の方法の中では、低温の局所施用は強いと思います。
初期費用やランニングコストについて、投資対効果や費用対効果を計算して、割に合う場合は導入をおすすめします。
その計算のために、販売価格や収穫量のアップ効果、実際にかかる経費などの計算が必要です。
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