冬の時期、イチゴを栽培しているハウスの換気温度について
「昼間の温度は光合成適温の23℃にしよう」
と安易に考えていませんか?
たしかに、イチゴの光合成適温や生育適温は「23℃くらい」と言われています。
でも、実はベストな室温は23℃とは限りません。
農園によっては、23℃ではない温度の方がいい場合も多いです。
では、何度が良いのか? どんなメリット、注意点があるのでしょうか?
この記事を最後まで読むと、冬の昼のハウスの換気温度を何度にすればいいのかが理解でき、イチゴの草勢や光合成を改善できます。
冬のハウスの最高室温は23℃が良いとされる理由
まずは冬のハウスの最高室温は23℃が良いとされている理由を説明します。
生育適温が20〜25℃くらいだから
イチゴの生育適温は、20〜25℃くらいと言われています。
根の生育適温はもう少し低く、15〜20℃くらいです。
光合成適温が20〜25℃くらい
イチゴの葉で行われる光合成の適温は、20〜25℃くらいと言われています。
幅がある理由は、日射や二酸化炭素などの影響で変わるためです。
学術的には23℃が正しい
そう考えると、23℃は学術的には正しい温度だと言えます。
実際、農学部の大学教授などに相談すると、「ハウス室温は23℃にしなさい」と言われることが多いです。
ただし、商業的なイチゴ栽培と学術的な栽培は別物です。
そのため、学術的な正論は必ずしも正解ではありません。
光合成を考えると温度は20〜30℃の範囲が良い
光合成のことを考えると、ハウス室温は20〜30℃程度が良い条件です。
イチゴの光合成は23〜25℃で最大化する
イチゴの光合成速度は、23〜25℃程度のときに最大になります。
これは二酸化炭素や日射などの条件が良い場合に限ります。
温度以外の条件が悪いと光合成は減少する
温度が23℃でも二酸化炭素や日射の条件が悪ければ、20℃や30℃の方が光合成が大きくなります。
理由は光合成には温度以外の影響も強く影響するからです。
例えば、二酸化炭素が不足すれば温度がベストでも光合成は小さくなります。
光の強さも光合成に強く影響します。
20〜22℃、26〜30℃も大きくは減少しない
では、20〜22℃、26〜30℃はダメかというと、そうではありません。
たしかに、23〜25℃のときよりは小さくなりますが、差は僅かです。
15℃以下や35℃以上になると、光合成の減少幅が大きくなります。
20〜30℃の範囲で他の要素を最適化する
そう考えると、ハウス室温が20〜30℃程度の範囲内が好適な条件になります。
その条件内で、二酸化炭素や日射、飽差などの条件を最適化した方が光合成を増やせます。
「最適温度だけに固執しないこと」がポイント。
光合成は一つの要素を最大化するよりは、すべての要素を底上げして、制限要因をなくすことが大切です。
二酸化炭素を考えると30℃の方が光合成が増える
次に、二酸化炭素を考えましょう。
23℃で換気を始めるとCO2の施用時間が短い
ハウス室温の上限値を23℃にした場合は、23℃になったらハウスの換気が始まります。
例えば、冬の晴れた日の場合、10時頃にはハウス室温が23℃に達します。
そうすると、日の出の8時から10時までの2時間だけが、ハウスが密閉できることになります。
収穫量アップのためにハウスを密閉する時間を長くする
イチゴ栽培では、このハウスを密閉する時間を長くすることが収穫量アップのために重要です。
理由は密閉している間は二酸化炭素の施用などの環境制御ができ、光合成を最大化できるからです。
ハウスの換気が始まると、二酸化炭素の高濃度施用ができず、湿度の調整もできません。
換気が始まると、露地栽培と近いような環境になってしまいます。
30℃で換気を始めるとCO2の施用時間が長い
次にハウス室温の上限値を30℃にした場合を考えてみましょう。
その場合は、12時頃までハウスを密閉することができます。
8時から12時までの4時間をハウスを密閉でき、長い時間で二酸化炭素の施用を行えるのです。
高濃度CO2の時間が2倍に伸びるので光合成が増える
二酸化炭素濃度を高めると、光合成速度が上昇し、光合成が盛んになります。
ハウス室温の上限値を、23℃から30℃に変えることで、2倍も長い時間、二酸化炭素を施用できます。
ハウス内の二酸化炭素濃度を高めると、光合成を促進することができます。
イチゴ栽培はいかに冬の午前中に二酸化炭素を吸収させるか。
これが収穫量の最大化や糖度アップのために大切です。
加温機を使ってまで30℃に上げる必要はない
ただ、多くの場合で、加温機で燃料費を使ってまで30℃に上げる必要はないです。
理由は、燃料費がかかるからです。
また、室温が上がらないということは、日射がない条件です。
そのため、温度を上げても光不足が光合成の制限要因になります。
ただし、草勢が弱い場合や加温のコストが小さい場合には、加温してでも温度を上げた方が良い場合もあります。
糖度を高めたい場合は20℃もアリ
逆にハウス室温を23℃よりも低い20℃にするのもアリです。
糖度を高めたい、粒のサイズを大きくしたい場合
糖度を高めたい場合や粒のサイズを大きくしたい場合は20℃もアリです。
ハウス室温を下げることで、成熟日数が長くなるからです。
成熟日数は開花から収穫までの日数で、温度が低いほど長くなります。
そして、成熟日数が長いほど、糖度が高くなり、果実サイズが大きくなりやすいです。
また、次の花房の花芽形成の温度が低くなるため、2ヶ月に収穫できる花芽のサイズも大きくなります。
草勢を抑えたい、花房を短くしたい場合
草勢を抑えたい場合や花房を短くしたい場合も20℃の方が良いです。
冬の終わり頃から低温管理をすることで、春の過繁茂を防ぐことができます。
また、春に花房が長すぎて折れるのを防ぐ効果もあります。
CO2発生装置がない場合は20℃で換気を早めても良い
30℃で光合成が促進される話は、ハウスに二酸化炭素発生装置がある前提で説明してきました。
もし二酸化炭素発生装置がない場合は、30℃になるまでハウスを閉鎖していると、二酸化炭素飢餓になり、光合成が抑制されます。
理由は、イチゴが光合成で二酸化炭素を吸収して、酸素を排出するからです。
二酸化炭素発生装置がなければ、ハウスを長時間、閉め切るのは光合成にマイナスです。
そのため、二酸化炭素発生装置がないハウスの場合は、20℃で換気を始めるのもアリです。
夜から午前の二酸化炭素の変化
夜の間にイチゴが呼吸を行うので、早朝のハウス内の二酸化炭素濃度は600ppm程度まで高くなっています。
その二酸化炭素を朝の光合成に使いましょう。
例えば、20℃で換気する場合は9時頃に換気が始まります。
8時から9時までの1時間で、夜に呼吸で増加したCO2は吸い尽くせます。
その結果、ハウス内の二酸化炭素濃度が600ppmから300ppmまで減少し、二酸化炭素飢餓が始まります。
そのままハウスを閉鎖すると光合成が抑制されます。
そこからはハウスを換気して、積極的に外気を取り込むようにしましょう。
外気は二酸化炭素濃度が420ppmほどです。
そうすれば、二酸化炭素発生装置がなくても、二酸化炭素飢餓になりません。
二酸化炭素の測定とモニタリングにはSwitchBotがおすすめ
このような管理をするためには、二酸化炭素の測定とモニタリングが必要です。
SwitchBotの二酸化炭素センサーは価格が安く、精度も校正すれば実用レベルです。
校正をしないと使えないので、必ず校正をしてから使ってください。
その他の要素
ここからはその他の要素を説明します。
草勢は20℃より30℃の方が強くなる
草勢は温度が高いほど強くなるので、20℃よりも30℃の方が強くなります。
冬は草勢が強い状態を維持することが重要です。
しかし、春からは逆で、草勢を強くなり過ぎないように抑えることが重要です。
温度が高いと最適な飽差も変わり湿度は90%がベスト
光合成を考えるときには、飽差(相対湿度)も最適化する必要があります。
最適な飽差の範囲は、3〜6g/㎥です。
最適な湿度は温度によって変動しますが、30℃の場合は相対湿度が90%ほど必要です。
90%はかなり高い湿度なので、実現するためには内張りやミストを使う必要があります。
ただし、飽差は温度や二酸化炭素、日射と比べると、影響が小さいです。
ハチの行動適温は20〜25℃がベスト
意外と忘れがちですが、ミツバチの行動適温も考える必要があります。
ミツバチの行動適温は20〜25℃程度です。
30℃は暑めですが、行動に問題はないと思います。
20℃の場合は夜の温度も10〜15℃まで上げないといけない
昼の温度を20℃にする場合は、日平均温度を維持するために、夜の温度を高めにする必要があります。
例えば、日平均温度15℃を維持しようと思うと、夜の温度は10〜15℃程度にする必要があります。
逆に、昼の温度を30℃に上げる場合は、夜の温度を6℃程度に下げる必要があります。
学術的には23℃が良い温度なので、「昼の温度は23℃で、夜の温度は13℃」のような温度管理の人が多いと思います。
ですが、夜の温度も13℃以外を考えた方が良いです。
まとめ イチゴ栽培の昼の最適温度
今回はイチゴ栽培の昼の最適温度を解説しました。
23℃でも良い場合もありますが、20℃や30℃の方が良い場合もあります。
「23℃が光合成適温だから」という理由で23℃を選ばないようにしましょう。
二酸化炭素濃度や日平均温度など、考慮すべきポイントは他にもあるからです。
みなさんのイチゴの生育や栽培計画、経費に合わせてベストな温度を選択してください。
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