株式会社イチゴテックの宮崎です。
「イチゴの栽培方法が多すぎて、どれを選べば良いのかわからくて困っている」
という相談を、いちご栽培を始めたい人や企業からよく受けます。
たしかに日本には、いろんなバリエーションのいちごの栽培方法がありますよね。
例えば
- 石垣を利用した石垣栽培
- 高設ベンチを使った養液土耕栽培
- 最近流行りの水耕栽培
- 工場内でLEDを使った植物工場
日本では、一つの農業資材系の会社がイチゴの栽培システムを3〜5種類くらい売っています。
なので、日本だけでもいちご栽培の方法は、おそらく100種類くらいあるでしょう。
これだけ選択肢があると、新しくいちごの栽培をしたい人が悩むのも無理はないですね。
そこで今回は、イチゴ農園のタイプ別にどんな栽培方法を選べば良いのか解説します。
イチゴの栽培システムを決める方法
まず、どうやってイチゴの栽培システムを決めるべきか説明します。
1.経営や予算から逆算して考える
一番重要なのは、イチゴ農園の経営計画や予算から逆算して決めることです。
いきなりイチゴを育てることを考えるのでなく、農園の経営を考えてから栽培を考えましょう。
初期コストはいくら使えるか?
・ランニングコストは高くて大丈夫か?
・何年間までなら赤字でも耐えられるか?
・補助金は使えるか?
2.売り先や販売計画から逆算して考える
経営について考えられたら、次に販路について考えましょう。
売り先が決まれば、作るべきイチゴの姿がイメージできます。
逆にいうと、売り先が決まらなければ栽培システムを決められません。
出荷先はどんなイチゴを求めているか?
・どの時期に出荷できるか?
・キロ単価いくらくらいで売れそうか?
3.目標とするイチゴ栽培を実現するために、システムを選ぶ
目標とするイチゴ栽培が決まったら、それを実現するために栽培システムを選びましょう。
たまに、栽培システムありきで農業を始める人がいるが、それは失敗する確率が高いのでやめた方が良いです。
「まだ珍しい特殊な栽培方法だから、やれば儲かるはず!」という考えは危険です。
甘い苺を収穫するために、それが得意な栽培システムを選ぶ
・低コストで苺を収穫するために、それが得意な栽培システムを選ぶ
・マニュアル化して大規模農園にするために、それが得意な栽培システムを選ぶ
【1】ビニールハウスか植物工場か?
ここからは、順番に栽培システムを決めていきましょう。
まず考えるべきは、栽培する建物がビニールハウスか植物工場か?
海外のイチゴ栽培では屋外での栽培が主流ですが、日本の品種は果皮が薄いし質が高い果実が求められるので、屋外栽培は候補には入りません。
なので、日本でイチゴ栽培をする場合には
・ビニールハウス
・植物工場
この二択になります。
1.いちごのビニールハウス栽培
ビニールハウスといっても、パイプハウスと鉄骨ハウスがあります。
さらにパイプハウスでも、連棟型や耐雪型などその種類は数百通り考えられます。
ただし、今回はそこまで細かく考えずに、一般的なビニールハウスをイメージしてみましょう。
ビニールハウス栽培のメリット
・初期コストが安い
・ランニングコストが安い
・大きさなどをカスタマイズができる
・耐雪性などローカライズできる
ビニールハウス栽培のデメリット
・気温、日長時間、風の影響を受ける
・季節の影響を受ける
・数年に一回、ビニールを張り替える必要がある
こんな農園におすすめ
・家族経営の農園
・中小企業
・ベンチャー企業
・新規就農者
2.いちごの完全閉鎖型の植物工場
最近、大企業向けに流行っているのが完全閉鎖型の植物工場。
完全閉鎖型の意味は、太陽光を遮断して自然の光を使わず、空調もエアコンで制御すること。
一般的にはLED照明を使って、植物に光合成させます。
完全閉鎖型の植物工場のメリット
・季節に関係なく、一年中収穫できる
・衛生的な環境で栽培できる
・地球上のどこでも同じように栽培できる
完全閉鎖型の植物工場のデメリット
・初期コストが莫大に必要
・ランニングコストが高い
こんな農園におすすめ
・農業ビジネスに進出したい大企業
・植物工場やIoTデータを売りたい企業
・数十年後を見据えて参入しておきたい企業
タイプ別のおすすめ建物
予算が1,000万円から5,000万円くらいの個人農家、ベンチャー企業、中小企業はビニールハウスを選ぶのが良いでしょう。
予算が5,000万円から5億円くらいある大企業は、植物工場も選択肢に入れられます。
最近は植物工場ブームが起こっていますよね。
ですが、日本で日本人向けに農作物を作る場合には、わざわざ植物工場を使う必要はほぼないです。
なぜかというと日本なら屋外栽培かビニールハウス栽培で、ほぼすべての農作物が収穫できるからです。
しかも、植物工場でのイチゴ生産事業は、未だに黒字化できた企業は1社もないといわれています。
日本中のイチゴ栽培の植物工場は、果実の生産事業だけでは赤字状態にあるといわれています。
もちろん、だからこそあえて植物工場に挑戦するというなら、その意義はあると思います。
しかし、それは金銭的な体力がある大企業にしかできないことでしょう。
【2】ビニールハウスの栽培方法は大きく分けて2つある
では、次に建物をビニールハウスを選んだ場合を考えてみましょう。
ビニールハウスでイチゴ栽培をする場合には、大きく分けて2つの栽培方法があります。
それは、この2つ。
・土耕栽培
・高設栽培
1.いちごの土耕栽培
いちごの土耕栽培は、地面の土を使っていちごを育てる方式。
これが昔ながらの農法で、海外では今でもこれが主流の栽培方法。
土耕栽培のメリット
・コストが安い
・味が美味しくなりやすい
・昔ながらの経験が活かせる
・有機栽培しやすい
土耕栽培のデメリット
・土によって違いがあるので、マニュアル化しにくい
・腰を曲げるので作業が辛い
こんな農園におすすめ
・初期コストを抑えたい
・家族経営
・小規模企業
・味にこだわりたい
・昔ながらの農法を続けたい
2.いちごの高設栽培
いちごの高設栽培は、地面の土を使わずに育てる方式。
直管パイプを使って高設ベンチを作り、胸くらいの高さで育てるのが一般的です。
他にもハウスの天井から栽培槽を吊り下げる方法もあります。
高設栽培のメリット
・立ったまま作業できて楽
・マニュアル化しやすい
・大規模化しやすい
高設栽培のデメリット
・初期コストが高い
・味が良くなりにくい
こんな農園におすすめ
・大規模化したい農園
・新規就農者
タイプ別のおすすめ栽培方法
昔ながらの農法を守りたい人や、有機質の肥料を使った栽培がしたい人、味を良くすることを追求したい人には土耕栽培がおすすめ。
逆に、楽な姿勢で作業がしたい人や大規模化したい人、初期コストが大きくても問題な人は高設栽培がおすすめです。
最近では新規就農者は、高設栽培を選ぶことが多いですよね。
ただし、東北や関東、九州など昔からイチゴ栽培をしている地域では、伝統に縛られて土耕栽培を続けている農園も多いです。
すでに土耕栽培のいちご農園を経営している場合にはそのままでも良いでしょう。
でも、新しくいちご農園を始める場合には、高設栽培がおすすめです。
【3】いちごの高設栽培の3つの種類
次にいちごの栽培方法で、高設栽培を選んだ場合を考えてみましょう。
高設栽培といっても、その種類は大きく分けて3つあります。
・水耕栽培
・養液土耕栽培
・固形肥料と灌水栽培
1.いちごの水耕栽培
いちごの水耕栽培は、土も培地も使わずに液肥だけで育てる方法。
養液栽培の一種です。
イチゴ栽培のために使われるのは、大量の水を貯めるDFT(湛液型水耕)ではなく、少量の水を流すNFT(薄膜水耕)が一般的。
ただし、ビニールハウスでの商業的なイチゴ栽培では、水耕栽培を用いている農園は数が少ないです。
逆に、完全閉鎖型の植物工場では、水耕栽培が用いています。
水耕栽培のメリット
・生育を細かくコントロールできる
・マニュアル化しやすい
・省スペースで栽培できる
水耕栽培のデメリット
・培地の緩衝能が使えない
・温度変化に弱い
・液肥の循環コストや殺菌コストがかかる
・失敗するリスクが大きい
・栽培が難しい
こんな農園におすすめ
・人と違ったことがしたい人
・完全閉鎖型の植物工場をしたい人
2.いちごの養液栽培
私が一番おすすめなのは、養液栽培。
養液栽培とは、液肥と培地を使った栽培なので、水耕栽培と土耕栽培の両方のメリットを受けられます。
日本のイチゴ栽培では、この養液栽培の面積が増えていて、最も一般的な栽培方法といえるでしょう。
養液栽培のメリット
・栽培が安定している
・マニュアル化しやすい
・水耕栽培と土耕栽培の両方のメリットがある
養液栽培のデメリット
・培地の種類によって生育が変わる
・生育に影響する要因が多いので複雑
・培地と液肥混入機のコストがかかる
こんな農園におすすめ
・どんなタイプの農園にもおすすめできる
3.いちごの固形肥料と灌水栽培
最後に紹介するのは、いちごの固形肥料と灌水栽培。
これは省コスト化が狙いの栽培方法で、土耕栽培のような感覚で栽培できます。
お金はないけど高設栽培を試してみたい人にはいいかもしれません。
固形肥料と灌水栽培のメリット
・液肥混入機がないので初期コストが安い
・土耕栽培と同じ感覚で栽培できる
固形肥料と灌水栽培のデメリット
・コストをかけて高設栽培にする意味がない
・正確な肥料コントロールができない
こんな農園におすすめ
・コストを抑えて高設化したい、既存の土耕栽培の農園
タイプ別の高設栽培の栽培方法
どうしても人と違ったことがしたい人や完全閉鎖型の植物工場をしたい人は、水耕栽培を選びましょう。
すでに土耕栽培のイチゴ農園を経営していて、お金はないけど高設栽培も試してみたい人は固形肥料と灌水栽培もいいでしょう。
ただし、高設栽培の強みを生かすためには養液栽培が一番おすすめです。
それにイチゴの高設栽培の場合には、ほとんどの農園が養液栽培を選んでいます。
その理由は、養液栽培が最もコスパが良くて成功確率が高い栽培方法だからです。
養液土耕栽培にもいろんな種類がある
ここまでで、一般的な農園へのおすすめとしてこの組み合わせをおすすめしました。
(1)建物:ビニールハウス
(2)栽培方式:高設栽培
(3)栽培方法:養液栽培
実はここからが本番で、養液土耕栽培の中にも数百種類の栽培システムが存在しています。
なので、その中から一つのシステムを選ばないといけません。
日本では、いろんな農業資材の会社が「いちご栽培用のシステム」と謳って販売しています。
それは以下のような要因を組み合わせて差別化をしています。
各社のいちご栽培用システムの構成要素
・支柱:直管パイプ、天井吊り下げ、シーソーベンチ、可動式ベンチなど
・栽培槽の種類:プランター、発泡スチロール、鉢、バッグ、二重シート、気化熱シート、Dトレイなど
・培地の種類:ピートモス、ココピート、杉皮チップ、ロックウール、混合培地、木炭など
・培地の量:一株あたり200ml、1.5L、2.0L、3.0Lなど
・液肥の種類:農業資材系各社の複合肥料、有機質肥料など
・株間:10、15、20、25、30cm程度
・液肥混入機の種類:ドサトロン、倍率制御式の液肥混入機
・灌水チューブの種類:点滴チューブ、ボタン式ドリップなど
・その他:ハウス用暖房機、二酸化炭素発生装置、遮光シート、育苗システム、葉面散布肥料
自社の経営や栽培計画に合わせて、ベストな栽培システムを選ぼう
イチゴの栽培システムを選ぶと、その農園でできることとできないことが決まります。
失敗しても交換することはできないので、栽培システムを選ぶときには慎重に選んで下さい。
栽培システムの10アールあたりの費用は、およそ200万円から5,000万円くらいで、かなり幅があります。
なので、複数の会社から見積もりを取って、コスト面で比較することも大切。
しかし、栽培システムの選択がその後数十年のいちご栽培を決定づけるので、値段が安いだけで選んではいけません。
栽培システムの中には費用の割に良くないものもあります。
それに、やりたい栽培と合わないシステムを選ぶとビジネスの失敗が決定してしまいます。
いちごの栽培方法まとめ
今回は、いちご農園向けに栽培方法の種類を紹介しました。
日本には非常にたくさんのいちごの栽培方法があるので、迷ってしまうと思います。
まずは経営や栽培計画を立てて、それに合う方法を選んで下さい。
最終的に栽培システムを決定する場合には、相見積もりを取ってコスト面でも検討しましょう。
ただし、栽培システムがいちご栽培を決定づけるので、ただ値段が安いという理由だけで選んではいけません。
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弊社は『イチゴ』に特化した農業コンサルティング企業です。
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