
「夏秋いちごを作っているけど、思ったより収穫量が伸びない…」と悩んでいませんか?
- 花は咲くのに、実が小さい
- 葉はあるけど、花房が少ない
- 途中で草勢が落ちて、秋の収量がガクッと下がる
- 実の形や色づきが悪くて、売り物にならない
- 夏や秋に、病気や害虫が多い
北海道・東北地方などの高緯度地域や、長野県や山梨県などの高標高地の夏秋いちごは、条件や栽培が良ければ高収量を狙えます。
夏秋いちごは一般的な冬春いちごよりも単価が150〜200%と高額なので、収穫量が多ければ高収益が期待できます。
ただし「苗の充実度」と「根や葉の生育を落とさない栽培環境」ができていないと、収量は伸びません。
この記事を最後まで読むと、夏秋いちごの収穫量を増やすための改善ポイントが整理でき、あなたの農園で何から手を付けるべきか判断できます。
収量は「花房数×着果数×果重」で決まる
収量を増やすときに、いきなり肥料や資材を足すのはおすすめしません。
理由は、効果がなく、逆に悪化させる原因になるからです。
まずは、あなたの農園で成功している点と失敗している点を切り分けます。
- 花数が足りない(花芽分化が異常、草勢低下、高温など)
- 花数は十分だが着果率が低い(受粉能力低下、高温、ハチの行動など)
- 着果数は十分だが果実が小さい(光合成不足、根傷み、着果負荷など)
以下の15項目は、上の3要素をどれか1つ以上改善するための具体策です。
1. 苗の完成度を上げる
夏秋いちごは、収穫期間が長く続き、いちごの生育適温から外れた時期が長いです。
そのため、スタート時点で苗が弱いと、生育中盤や後半に必ず失速します。
- クラウンが細い、太さがバラバラ
- 葉が小さい
- 根量が少ない、根鉢ができていない
- 萎黄病などの病気に感染している
- ハダニ、アザミウマに寄生されたまま定植
- 苗齢がバラバラ
まずは「揃った強い苗」でスタートすることが最優先です。
そのためには、夏秋いちごは「自社で秋に育苗すること」が望ましいです。
春に苗を購入しないといけない場合は、晩冬から初春に鉢上げして、良い苗を育てましょう。
2. 定植直後の活着を最優先する
定植後の根の活着が遅れると、その後の花数・果重に影響が残ります。
理由は、根から肥料成分を十分に吸収できないから。
特に夏秋栽培は、収穫期が高温期と重なるので、初期生育の重要度が高いです。
- 定植前に培地全体を十分に湿らせる
- 定植後は培地を湿らしすぎない
- ハウス室温を高くしすぎない
- 葉よりも根の生育を優先させる
- 発根促進剤を使う
- 活着が遅い株はすぐに植え替える(そのための予備苗を用意)
「活着が良い=収穫期間の前半の収量が成功した」と考えると分かりやすいです。
「初期生育が悪いとその年の栽培はすでに半分くらい失敗した」と考えてください。
3. 株密度(株間)を狭くして密植する
夏秋期間は日射が強い時期が多く、冬期間ほどは日射が重要ではありません。
冬は1%でも多くの日射を大きな葉で受けることが大切ですが、夏はそうではありません。
そのため、面積あたりの収穫量を増やしたいのであれば、株間を狭くした密植栽培がおすすめです。
- 株間を狭くする
- 条数を増やす
- 通路を狭くする
- 株間が狭い分、芽数を制限する
ただし、密植すると1株あたりの収穫量は少なくなります。
そのため、苗代やパテント代がかかる場合は、そのコストも考慮する必要があります。
密植ができない場合は、1株あたりの芽数を多くするのがおすすめです。
4. 日中の高温対策でハウス室温を下げる
高温は、着果不良・果実肥大不良・根傷みなどの問題を引き起こします。
いちごの生育適温は18〜25℃程度です。
これは夏秋栽培に使用する四季成り性品種も同じです。
ですが、夏秋期のビニールハウスは室温が30〜45℃になりますよね?
その結果、夏秋栽培では、生育適温よりも暑い条件になり、花芽分化が阻害され生育が悪くなり、いちごの収穫量が減ります。
ポイントは「高温のピークを削る」ことです。
- 遮光をすると直射日光で葉や花の表面温度が上がることを防げます
- 換気をすると室温が高くなることを防げます
- 細霧冷房などで気化熱を発生させると温度を下げられます
高緯度地域や高標高地でも、晴天日はハウス室温が一気に上がるので油断禁物です。
夏秋栽培ではビニールハウスの温度が高いほど収穫量が減ります。
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5. 夜間のビニールハウス温度を下げる
いちごは夜間は光合成をしませんが、「呼吸」はします。
光合成産物の転流は昼も夜も一日中、行われます。
夜間のビニールハウス温度が高いと、株の生育が悪くなります。
いちごの生育適温は18〜25℃程度なので、夜間は10〜15℃が理想です。
ですが、実際には夜間の温度は18〜28℃程度になることが多いです。
夜の温度が高いと呼吸量が増えて、光合成産物が無駄に消費されて、葉や根、花の生育が悪くなります。
- 夜にハウスを全開にして換気する
- 夜にハウスを閉め切って農業用エアコンで冷やす
- 夜の気温が低い場所で育てる
夜に温度を下げることで、葉や根の生育を改善できます。
6. 早朝から午前中に光合成を促進
収量を多くするためには、特に午前中に光合成を促進することが大切です。
昼から午後は気温が上がるため、光合成よりも温度の最適化を優先させるからです。
早朝から午前中にも光合成よりも温度の最適化を優先させると、光合成不足になります。
- 朝の早い時間帯に光を当てる(遮光をしない)
- 朝に液体肥料を潅水して水不足と肥料不足を防ぐ
- 午前中に光合成に最適な環境を作る(光、水、二酸化炭素、肥料、葉面積)
「午前で光合成産物を優先させ、午後は生育適温を優先させる」という発想を持ちましょう。
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7. 潅水は多頻度潅水
夏秋は気温が高く、葉が大きいので蒸散が大きく、「水不足」が収量に悪影響を与えます。
高設栽培の場合は、培地の種類や量、排水構造も影響します。
- 培地が乾燥すると根の生育が悪くなります
- 水不足になると気孔が閉じ、光合成が減ります
- 排水性が悪いと根腐れが起きます
- 培地の種類や量が違う農園のマネをしない(条件が違うため)
- 株の合計葉面積が違う農園のマネをしない(条件が違うため)
日射(天候)・気温・株の大きさに合わせて、潅水の設定を毎日、微調整するべきです。
潅水の設定をずっと変えずに育てていませんよね?
8. 高設栽培の廃液の量とECを測定する
高設栽培なのに、廃液の量とECを確認していない人はいませんよね?
高設栽培の場合、肥培管理は「養液栽培の法則」でコントロールするのがおすすめです。
養液栽培の法則では、廃液の量とECが重要。
- 廃液の量が少ない場合は潅水不足
- 廃液の量が多い場合は正常な廃液ECを測定できません
- 廃液のECが低すぎる場合は肥料不足
- 廃液のECが高すぎる場合は肥料過剰か根の生育低下
肥培管理は「施肥量」ではなく、「吸収量」で判断すべきです。
いちごに液体肥料を毎日与えているだけでは、本当の養液栽培とは言えません。
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9. 根域温度(培地温度)を下げる
いちごの冬期間の促成栽培では、根域温度を高くするのが大切です。
理由は冬は根域温度が生育適温よりも低くなるから。
逆に、夏秋栽培では、根域温度を低くするのが大切です。
理由は夏は根域温度が生育適温よりも高くなるから。
- 根域に冷却管を通して、冷水で培地冷却をする
- 根域にエアコンの冷風を通して、冷風で培地冷却をする
- 根域で気化熱を発生させ、培地温度を下げる
- 培地にタイベックシートなどで日射が当たらないようにして、温度を上げない
- 葉かきを減らして、培地への直射日光を遮る
- 発泡スチロール性のベンチで、断熱する
遮熱や断熱、冷却など、根域の温度を低下させる工夫は、いちごの草勢強化に繋がり、収量を増やします。
10. 受粉を安定させて出荷率を上げる
夏秋いちごで収量が下げる大きな原因の1つが、受粉の不安定さです。
夏秋栽培では促成栽培よりも出荷率が低くなり、ロス率が高くなりがちです。
理由は、ミツバチの行動が不安定だから、気温が高すぎて花の受粉能力が低いから。
いちごの形が奇形だったり、色ムラができていませんか?
- 高温で花粉や雌しべが弱る
- 高温でミツバチの行動が少ない
- 殺虫剤の多頻度散布でミツバチが減る
- ミツバチに悪影響が少ない農薬を選択する
- ミツバチの巣箱に日除けを付ける
ミツバチの巣箱の設置方法、餌の与え方、行動量のモニタリングを見直しましょう。
11. うどんこ病や灰色かび病など病気の初期対応を早くする
せっかく花や実ができても、うどんこ病や灰色かび病になると売り物になりません。
病気の蔓延は、「人のミス」です。
- 換気で湿度を溜めない
- 病気が出る前提で、予防の設計を組む
- 発生したら初期ですぐに殺菌剤を散布する
- UV-Bライトを設置する
- ボトキラー水和剤のダクト内投入をする
- 病気が出にくい品種を選ぶ
- 花びらをブロワーで飛ばす
- 苗の段階で殺菌してから定植する
- 適切な農薬を選び、展着剤も使用する
- 古い葉を摘み取り、薬液を株全体にかける
人のミスで収量を減らさないようにしましょう。
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12. アザミウマ・ハダニなど害虫の早期発見と早期駆除
害虫が発生すると収穫量が減ります。
夏秋は気温が高いので露地に害虫が大量に存在し、ハウスに毎日侵入してきます。
ハウスに侵入すると交尾を行い、爆発的に数が増えます。
そのため、害虫を早期発見して、早期駆除する必要があります。
- チャノキイロアザミウマが新芽に寄生すると葉が縮れて光合成が減ります
- ミカンキイロアザミウマやヒラズハナアザミウマが花に寄生すると商品価値を失います
- ハダニやアブラムシが葉に寄生すると養分を吸収されて生育が悪くなります
- アブラムシが花弁に寄生するとスス病になり商品価値を失います
- 虫が隠れる古い葉を摘み取り、農薬散布で薬液が虫にかかりやすくする
- 適切な農薬を選択し、展着剤も使用する
特にアザミウマとハダニを重点的に探して駆除しましょう。
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13. 摘花・芽かき・ランナー取りで着果負荷を減らす
いちごの夏秋栽培では収穫期間が6月から11月までと「長い」です。
そのため、収穫期の前半(夏)で負担を大きくすると、収穫期の後半(秋)で収穫量が落ちます。
しかし、いちごの市場卸売価格は、夏よりも秋の方が高く、経営的には「秋の収穫量」が重要です。
- 小玉になる小さな花は花の段階で摘み取る
- 小玉の果実は摘み取る
- 芽かきをして地上部と地下部のバランスを取る
- ランナーは除去する
夏の収穫量だけを考えるなら、栽培管理は何もしないても良いです。
秋も収穫量を確保したいなら、夏に栽培管理が必要です。
14. 収穫・選果・出荷のロスを減らす
同じ収穫量でもロス率が違えば、出荷量が変わります。
収穫、選果、出荷の際にロスをなくしましょう。
- 収穫のタイミングが遅いと過熟になります
- 収穫の採り忘れをなくす
- 気温が低い早朝に収穫を行う
- 玉出し作業を行う
- 作業の熟練者だけで作業を行う
- 予冷を行う
- エアコンが効いた室内で選果する
- クッションなどで輸送中の傷みを減らす
- 出荷先と熟度やサイズなどの打ち合わせや調整を行う
栽培だけでなく「収穫から選果、出荷までの作業設計」も収量アップの一部です。
15. データ化でPDCAを回す
夏秋いちごの収量アップは、結局ここに集約されます。
- いつ(天気・日射・温度)
- 何をしたか(潅水回数・EC・遮光・換気)
- どうなったか(花数・着果・果重・収量)
「勘や記憶」に頼った栽培だと再現性が低く、同じ結果を毎年得られません。
最低限、以下を記録するだけでも改善が早くなります。
- 日射(または天気の記録)
- 室温
- 湿度
- 潅水回数・肥料濃度
- 廃液量・廃液EC
- 栽培管理の実施程度
- 出荷日ごとの等級別収穫量
- 1株あたりの収穫量
- 1株あたりの出荷量、ロス率
- 面積あたりの収穫量
- 面積あたりの出荷量、ロス率
他人に、これらのデータをすぐに見せられますか?
できない人は、まだ改善段階ではありません。
まず最初はデータの「記録」から始めましょう。
動画でも夏いちごを解説
動画でも夏いちごについて解説しています。
まとめ
夏秋いちごの収穫量を増やすために重要なのは、次の3つです。
- 苗の完成度を上げて、活着を揃える
- 根と葉の生育を悪化させない
- 収量などを記録して、改善を回す
まずは「花数」「着果率」「果重」のどこが落ちているかを切り分けて、上の15項目から優先順位を付けて改善してみてください。
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