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テレビなどのマスメディアでは、「イチゴは追熟しない果物です」と紹介されることがあります。

追熟とは、一般的に、果物を収穫した後も成熟が進み、色や硬さ、香り、味などが変化して食べ頃に近づくことをいいます。

例えば、バナナやキウイフルーツ、メロンなどは追熟する果物として知られています。

収穫時には硬かった果実が、保存している間に柔らかくなり、香りや甘さが変化します。

一方で、イチゴは一般的に追熟しない果物に分類されています。

そのため、テレビなどでは「イチゴは追熟しないので、収穫後に保管しても甘くなりません」と説明されることがあります。

しかし、実は「追熟しない」と「保存しても甘く感じるようにならない」は、同じ意味ではありません。

私はこれまでイチゴの栽培や研究に関わってきましたが、収穫後のイチゴを数日間保存することで、酸味が弱まり、以前より甘く感じられるようになった経験が何度もあります。

そこで今回は、イチゴの収穫後の変化について、国内外の研究論文を調べてみました。

イチゴは収穫後に糖度が高くなりにくい

まず、イチゴが追熟しない果物といわれる理由を説明します。

バナナなどの果物には、収穫時にデンプンが多く含まれており、追熟によってデンプンが糖に分解され、甘みが増すものがあります。

しかし、イチゴにはもともとデンプンが少なく、収穫後に糖分を大きく増加させることは期待できません。

また、イチゴはバナナなどとは異なる「非クライマクテリック型果実」に分類され、エチレンによる急激な成熟促進や呼吸量の増大が起こらない果物です。

2014年に発表されたインドの研究では、イチゴの「Camarosa」と「Chandler」という2品種を5℃で9日間保存したところ、両品種とも糖含有量と可溶性固形物含量が減少しました。

5℃は家庭用冷凍庫と同じくらいの温度です。

つまり、収穫後に冷蔵庫ほどの低温状態で保存しても、糖分が増えるとは限らず、むしろ減る場合があるのです。

参考文献:Mishra et al. (2014), Effect of Storage on the Physicochemical and Flavour Attributes of Two Cultivars of Strawberry Cultivated in Northern India.

収穫後に白いイチゴが赤くなることがある

では、収穫後のイチゴはまったく変化しないのでしょうか?

そんなことはありません。

スーパーで販売されているイチゴをよく見ると、ヘタのすぐ下が白色になっている果実があります。

要するに、完熟ではない、未熟なイチゴです。

このようなイチゴを冬の常温や冷蔵庫で数日間保存すると、白色だった部分が赤く変化することがあります。

これは私自身、何度も経験している現象です。

実際、収穫後にイチゴの赤色が濃くなる現象は、研究でも確認されています。

1999年に発表されたカリフォルニア大学の研究では、「Selva」という品種のイチゴを5℃で保存したところ、果皮や果肉の赤色が濃くなり、赤色の色素であるアントシアニンが蓄積しました。

また、2023年に公表された別の研究では、成熟度が50%、75%、100%のイチゴを収穫し、12日間保存して品質の変化を調べています。

その結果、保存中に果実表面の赤色が進み、アントシアニンも増加したことが確認されました。

つまり、イチゴは追熟しない果物に分類されますが、収穫後も果実の色が変化することは科学的に確認されているのです。

イチゴは未熟な状態では白色で、熟度が進むと赤色に変化します。

要するに、収穫した後でもイチゴは熟度が進み、果実の色が変化するのです。

ただし、同じ赤色になったとしても、収穫する前に赤色になった果実と、白色で収穫して赤色になった果実では糖度や味が違います。

参考文献:

Holcroft & Kader (1999), Controlled atmosphere-induced changes in pH and organic acid metabolism may affect color of stored strawberry fruit.

Metabolomic analysis of strawberries at different maturities according to postharvest storage period (2023).

収穫後にイチゴの酸味が減少することがある

ここが今回の記事で最も重要なポイントです。

イチゴの甘さは、糖分だけで決まるわけではありません。

酸味とのバランスも大きく影響します。

例えば、同じ糖度10度のイチゴでも、酸味が強い果実と弱い果実では、甘さの感じ方が異なります。

酸味が強い方が甘さを弱く感じ、酸味が弱い方が甘さを強く感じます。

そして、収穫後のイチゴでは、保存中に酸が減少することが研究で確認されています。

2022年に発表された「Albion」という品種の研究では、保存期間中に総酸度が低下する傾向がみられ、4日間の保存で酸度がおよそ12%低下したと報告されています。

また、先ほど紹介した2014年の研究では、5℃で9日間保存したイチゴのうち、「Camarosa」では滴定酸度が低下しました。

一方で、「Chandler」では酸度がほぼ一定でした。

つまり、品種や保存条件によって違いはありますが、収穫後のイチゴで酸味の原因となる有機酸が減少することは、研究でも確認されているのです。

参考文献:

Chemometric Valorization of Strawberry (Fragaria × ananassa Duch.) cv. 'Albion' for the Production of Functional Juice (2022).

Effect of Storage on the Physicochemical and Flavour Attributes of Two Cultivars of Strawberry Cultivated in Northern India Mishra et al. (2014).

糖度が高くならなくても、甘く感じることがある

ここまでの研究結果を整理すると、イチゴの収穫後には次のような変化が起こる可能性があります。

項目収穫後の変化
糖分増加するとは限らず、減少する場合もある(基本的には変化が小さい)
酸度品種や保存条件によって減少することがある
果皮の色白色や薄い赤色から、より濃い赤色に変化する場合がある
甘さの感じ方酸味が弱まることで、相対的に甘く感じる可能性がある

例えば、仮に糖度が10度、酸度が1.0%のイチゴがあったとします。

このイチゴを保存した結果、糖度が10度のままで、酸度が0.8%に減少したとします。

この場合、糖度を酸度で割った「糖酸比」は次のように変化します。

  • 保存前:10 ÷ 1.0 = 10
  • 保存後:10 ÷ 0.8 = 12.5

糖度はまったく変わっていないのに、糖酸比は25%も高くなっています。

これは仕組みを説明するための仮の数値で、特定の保存実験の測定結果ではありません。

また、糖酸比が25%上がったからといって、人間が感じる甘さも25%強くなるという意味ではありません。

しかし、糖分が増えなくても酸味が減少すれば、相対的に甘さを強く感じる可能性があることは理解できると思います。

実際に、私は保存後のイチゴが甘くなったと感じています

私自身の経験についても紹介します。

スーパーで購入したイチゴの中に、ヘタの下が白くなっている未熟な果実があることがあります。

このような果実を、冬の涼しい室内や冷蔵庫で数日間保存すると、白かった部分が赤色に変化することがあります。

また、保存前に比べて酸味が弱くなり、甘さを強く感じることもあります。

これは私がこれまでに何度も経験してきた現象です。

もちろん、私自身が同じ果実の保存前後で糖度や酸度を測定し、官能評価を実施したわけではありません。

そのため、私の経験だけで、酸度が何%下がったのか、甘さがどの程度変わったのかを断定することはできません。

しかし、収穫後にイチゴの赤色が進む研究や、酸度が低下する研究は存在しています。

これらは、私が経験してきた現象と合致しています。

ただし、すべてのイチゴが保存によって甘く感じるようになるわけではありません。

品種や収穫時の成熟度、保存温度、保存期間によって変化は異なります。

例えば、ヘタの真下まで真っ赤な完熟もしくは過熟状態のイチゴであれば、その時点ですでに酸が少ないので、保存しても酸が減らない可能性があります。

また、保存期間が長くなると、果実が柔らかくなったり、腐敗したり、風味が損なわれたりすることもあります。

そのため、甘くなることを期待して、イチゴを何日も常温で保存することをおすすめしているわけではありません。

「イチゴは追熟しない」という説明は間違いなのか?

ここで「追熟」という言葉に戻ります。

イチゴを追熟しない果物に分類すること自体は、一般的な園芸学や収穫後生理学の説明として間違いではありません。

しかし、「非クライマクテリック型果実であること」と「収穫後に果実の成熟に関連する変化がまったく起こらないこと」は同じ意味ではありません。

実際、2006年の研究では、成熟度の異なる3品種のイチゴを収穫し、1℃で8日間保存して、樹上で成熟した果実と比較しました。

その結果、果実表面の約75%が赤くなった段階で収穫したイチゴでは、保存中にも色や成分の変化が進み、糖度や酸度などが収穫時に完熟していた果実に近づくことが報告されています。

ただし、もっと未熟な段階で収穫したイチゴでは、樹上で成熟した場合と同じような変化は起こりませんでした。

この研究では、収穫後の変化について「ripening」という言葉も使われています。学術論文でも、追熟や成熟という言葉の使い方には幅があることがわかります。

したがって、「イチゴは追熟しない」という基本的な分類は維持しつつも、「収穫後には何も変化しない」「保存しても甘さの感じ方は変わらない」と説明するのは不正確です。

ということは、「イチゴは追熟しないので収穫後に甘くならない」という説は正確性に欠くと思います。

正しくは、「イチゴは追熟しないので、バナナのようなデンプンが多くフルーツのように収穫後に糖度が急上昇することはないが、保存中に酸が減少することは起きうるので酸が多い未熟なイチゴの場合には、保存中に酸が減少し、人間が舌で感じる甘さは強く感じる可能性がある」だと思います。

参考文献:

Nunes et al. (2006), Physicochemical changes during strawberry development in the field compared with those that occur in harvested fruit during storage.

まとめ

今回は、「イチゴは追熟しないので、収穫後に甘くならない」という説明について調べてみました。

その結果、イチゴは一般的に追熟しない果物に分類され、収穫後に糖分が大きく増えることは期待できませんが、保存中に果実の色が赤く変化したり、酸度が低下したりすることが研究で確認されていました。

つまり、糖分が増えなくても、酸味が弱まることで以前より甘く感じる可能性があります。

ただし、今回調べた研究には、糖度・酸度の変化と人間が感じる甘さの変化を同時に検証していないものもあります。

そのため、保存すれば必ず甘くなるとまでは言えません。

私自身、白い部分が残ったイチゴを数日間保存すると、赤色が進み、酸味が減って甘く感じる経験をしてきました。

今回の研究結果は、その経験を説明する手がかりになると考えています。

「イチゴは追熟しない」は正しいですが、「追熟しないから、保存しても甘く感じるようになることはない」という説明は正確ではありません。

テレビなどのマスメディアでは、こうした違いも含めて紹介してほしいと思います。

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