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テレビ番組やインターネットの記事などで、「イチゴの栄養成分はヘタの下に集中しています!」という説明を見かけることがあります。

そのため、「イチゴのヘタを包丁で切り落とすと、栄養成分まで捨ててしまうので、ヘタは手で取った方がよい」と紹介されています。

しかし、本当にイチゴの栄養成分はヘタの下に集中しているのでしょうか?

私自身、イチゴを専門に研究してきた立場から、この説明には疑問を感じていました。

そこで今回は、実際にイチゴの栄養成分を分析した学術論文を調べてみました。

「イチゴの栄養はヘタの下に集中している」という情報

この説明は、さまざまなメディアで紹介されています。

例えば、某お天気ニュースサイトでは、2019年1月に公開された記事で、管理栄養士のS氏が、「イチゴのビタミンCはヘタの周辺の白い部分に多く含まれている」と説明しています。

さらに、2021年1月、2023年1月、2024年2月に公開された記事でも、「ヘタの真下や周辺に栄養が集中する」という説明が繰り返し掲載されています。

その理由として紹介されているのが、「イチゴは茎から栄養成分が送られてくるため、ヘタの周辺に栄養が集まる」というものです。

一見すると、納得できそうな説明です。

しかし、植物の中で栄養成分がどのように移動し、どの部分に蓄積するかは、栄養成分の種類や植物の生理的な働きによって異なります。

茎から栄養成分が送られてくるからといって、必ずしもヘタの周辺に最も多く蓄積するとは限りません。

学術論文では、ビタミンCは先端部分に多かった

今回、イチゴの部位別のビタミンC含有量について調べたところ、1973年に発表された学術論文が見つかりました。

論文のタイトルは『果菜類の生育とビタミンCの分布(II)―トマト、ピーマン、イチゴ―』です。

山口大学の北川雪恵氏による研究で、学術雑誌『栄養と食糧』に掲載されています。

この研究では、イチゴの「ダナー」という品種を使用し、果実を①先端部分、②中央部分、③ヘタ側の部分に分けて、それぞれのビタミンC含有量を測定しています。

その結果は、次のとおりでした。

イチゴの部位ビタミンC含有量
①先端部分93.2 mg/100g
②中央部分74.1 mg/100g
③ヘタ側の部分73.3 mg/100g

※総ビタミンCの加重平均値。論文の表5より。

なんと、ビタミンCが最も多かったのは、③ヘタの周辺ではなく、ヘタから最も遠い①先端部分だったのです!

先端部分のビタミンC含有量は、ヘタ側の部分の約1.27倍でした。

さらに、論文では果実を皮部、果肉部、芯部にも分けて分析しており、ビタミンCは皮部に最も多く、次いで果肉部、芯部の順だったと報告しています。

つまり、この研究結果は「イチゴのビタミンCはヘタの下に集中している」という説明とは、まったく「逆の結果」になっています!

ただし、この研究は特定の品種を対象としたものです。

すべてのイチゴ品種について、必ず同じ結果になると断定できるわけではありません。

ですが、多くの品種で同じ傾向にあると思います。

参考:北川雪恵(1973)『果菜類の生育とビタミンCの分布(II)―トマト、ピーマン、イチゴ―』

英語の論文を読み間違えた可能性はあるのか?

今回の調査で、もう一つ興味深いことがありました。

先ほど紹介した1973年の論文には、日本語の本文だけでなく、英語の要約も掲載されています。

その英語の要約にも、「イチゴとピーマンでは、ビタミンCは果実の先端部分に最も多く、基部に近づくほど少なくなる」と説明されています。

一方、同じ論文で調査されたトマトでは、「基部のビタミンC含有量が高い」という結果になっています。

つまり、同じ論文の中でも、イチゴとトマトではビタミンCの分布が異なっているのです。

もし、研究対象の植物を取り違えたり、先端部分と基部を混同したりすると、反対の意味で情報が伝わる可能性があります。

ただし、今回の調査では、実際に誰かが英語論文を誤訳したことを示す証拠は確認できませんでした。

また、今回紹介した論文自体も日本語で書かれたものです。

そのため、誤訳が今回の情報の発端だったと断定することはできません。

ただし、すべての栄養成分が先端に多いわけではない

ここで注意したいのが、イチゴに含まれる栄養成分はビタミンCだけではないという点です。

イチゴには、ビタミンCのほかにも、カリウムやカルシウムなどのミネラルが含まれています。

これらの栄養成分は、必ずしも同じ場所に集中するわけではありません。

例えば、「カルシウムについては、果実の先端部分よりもヘタ側の部分に多く含まれる」という研究結果もあります。

つまり、ビタミンCは先端部分に多くても、別の栄養成分はヘタ側の部分に多い場合があるのです。

したがって、「イチゴの栄養成分はヘタの下に集中している」という説明も、「すべての栄養成分は先端部分に集中している」という説明も、正確ではありません。

栄養成分ごとに分けて考える必要があります。

ヘタは包丁で切り落としてはいけないのか?

では、イチゴのヘタは包丁で切り落としてはいけないのでしょうか?

私は、必ずしもそうではないと考えています。

当然ですが、包丁でヘタの周辺を大きく切り落とせば、その部分に含まれている栄養成分も一緒に捨ててしまいます。

しかし、それはヘタの周辺に栄養成分が集中しているからではありません。

栄養成分を含む果肉を捨てているからです。

ヘタを手で取っても、包丁で薄く切り落としても、果肉をできるだけ残すという点では、どちらにも合理性があります。

大切なのは、ヘタの取り方を過度に気にすることよりも、おいしくイチゴを食べることだと思います。

ヘタを切ってから水洗いすると栄養成分の大部分を失うのか?

これについては実験をしていないのではっきりとはわかりませんが、そんなことはないと推測できます。

ヘタを切ってから水洗いすると、切った断面付近の果肉に含まれる成分は水に流出します。

浸透圧のためです。

しかし、水洗いしたくらいでは、イチゴの果実全体の栄養成分が流出することはありません。

仮に断面の栄養成分が流出したとしても、大部分の栄養成分は他の部分に残っているはずです。

もし水洗いしただけで栄養成分が流出しているとしたら、他の野菜や果物も同様に、水洗いしただけで栄養成分が流出しているはずです。

まとめ

今回は、テレビ番組やインターネットの記事で紹介されている「イチゴの栄養成分はヘタの下に集中しています」という情報について、学術論文を調べてみました。

その結果、1973年に発表された研究では、イチゴのビタミンCはヘタの周辺よりも先端部分に多く含まれていることがわかりました。

一方で、カルシウムなど、ヘタ側に多く含まれる栄養成分もあります。

したがって、「イチゴの栄養成分はヘタの下に集中している」と一括りに説明するのは、科学的に正確ではありません。

もちろん、すべてのテレビ番組やインターネットの記事が間違っているわけではありません。

しかし、専門家が解説している情報であっても、学術研究の結果と一致しているとは限りません。

今回のように、もっともらしい説明でも、実際に論文を調べてみると異なる結果が出てくることがあります。

弊社イチゴテックでは、今後もイチゴに関する情報について、可能な限り科学的な根拠を確認し、正確な情報を発信していきたいと考えています。

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