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いちご栽培では、「ファインバブルや酸素水を使用すると、根の生育が良くなり、収量や糖度が増える」という話があります。

実際に、農業用のファインバブル発生装置が販売されており、いちご栽培での利用も進められています。

その仕組みとして説明されるのが、根への酸素供給です。

「植物の根には酸素が必要なので、灌水する水の酸素濃度を高めれば、根の生育が改善され、収量が増える」という考え方です。

確かに、植物の根には酸素が必要です。

しかし、根に酸素が必要だからといって、ファインバブルを使用すれば必ず収量が増えるとは限りません。

そもそも、一般的ないちご農園では、根が酸素不足になっているのでしょうか?

また、酸素不足になっている場合でも、ファインバブルより先に改善するべきことがあるかもしれません。

そこで今回は、日本と海外の研究論文を調べ、ファインバブルによる根の生育、収量、糖度への影響を検証してみました。

弊社はファインバブル装置の販売をしていないので、増収した研究だけでなく、減収した研究や効果が確認されなかった研究についても客観的に紹介します。

ファインバブルとは何か?

ファインバブルとは、直径が100μm(0.1mm)未満の非常に小さな気泡の総称です。

国際規格では、大きさによって次の2種類に分けられています。

名称気泡の大きさ
マイクロバブル1μm以上、100μm未満
ウルトラファインバブル(UFB)1μm未満

ウルトラファインバブルはマイクロバブルよりも小さく、水中を浮上しにくいため、比較的長時間存在できる場合があります。

なお、「ナノバブル」という呼び方もありますが、国際規格では「ウルトラファインバブル」という名称が使用されています。

今回の記事では、マイクロバブルとウルトラファインバブルの両方を含めて「ファインバブル」と呼びます。

酸素水とファインバブル水は違う

ここで注意したいのが、酸素水とファインバブル水は同じものではないということです。

酸素水は、一般的に溶存酸素濃度を高めた水を指します。

一方、ファインバブル水は非常に小さな気泡を含む水です。

また、ファインバブルには空気を使う場合と、酸素ガスを使う場合があります。

空気には約21%の酸素しか含まれていませんが、純酸素を使用すれば、水の溶存酸素濃度をさらに高めることができます。

つまり、ファインバブル発生装置を使えば、必ず高濃度の酸素水ができるわけではありません。

気泡の大きさ、気泡の数、使用する気体、溶存酸素濃度は、それぞれ区別する必要があります。

そもそも、いちごの根にはなぜ酸素が必要なのか?

植物の根は、水や肥料を吸収するだけでなく、呼吸もしています。

呼吸では酸素を利用して有機物を分解し、生命活動に必要なエネルギーを生み出します。

このエネルギーは、根の伸長や養分吸収などに利用されます。

そのため、根の周囲に酸素が不足すると、正常な呼吸が難しくなり、根の生育や養分吸収が制限されることがあります。

酸素不足が長く続くと、根が傷み、地上部の生育不良や根腐れにつながる可能性もあります。

ただし、酸素が多ければ多いほど根が成長するわけではありません。

十分な酸素が供給されている状態で、さらに酸素を増やしても、増収するとは限らないからです。

水耕栽培では、なぜ根が水に浸かっていても根腐れしないのか?

ここで疑問になるのが、水耕栽培です。

土耕栽培では、水が多すぎると根が酸素不足になると説明されます。

しかし、水耕栽培では、根がずっと水に浸かっていても正常に成長します。

これはなぜでしょうか?

答えは、水耕栽培では水に溶けている酸素を根が利用できるからです。

土耕栽培やヤシガラ培地の高設栽培では、根は主に土壌や培地の空隙にある空気から酸素を得ています。

一方、湛液式水耕栽培では、培養液中の溶存酸素を利用します。

そのため、水耕栽培では培養液に空気を送り込むエアレーションや、培養液を循環させる仕組みが利用されています。

例えば、観賞魚の水槽と同じように、エアポンプから空気を送り込むだけでも酸素を供給できます。

一般的な水耕栽培では、溶存酸素濃度を6mg/L以上に維持することが一つの管理目安になります。

ただし、作物や水温などによって必要な条件は異なります。

水耕栽培でも酸素不足による根傷みは起こる

エアポンプが停止したり、水温が上昇したり、根が過密になったりすると、培養液中の酸素が不足することがあります。

そのため、水耕栽培でも根が傷む場合があります。

また、根腐れには低酸素による生理的な障害だけでなく、ピシウムやフィトフトラなどの病原体による病害もあります。

十分な酸素を供給していても、病原体による根腐れ病が必ず防げるわけではありません。

つまり、根が水に浸かっていること自体が問題なのではなく、根が必要とする酸素を継続的に利用できる環境になっているかが重要なのです。

いちご栽培では、本当に根が酸素不足になるのか?

いちごの根が酸素不足になることはあります。

しかし、適切に管理されたすべての農園で、酸素不足が発生しているわけではありません。

特に重要なのが、土壌や培地の排水性と通気性です。

土壌や培地の気相率によって酸素供給量が変わる

土壌は、土の粒子である固相、水が存在する液相、空気が存在する気相の3つで構成されています。

土壌中の気相率が高いと、空気の通り道が確保されるため、酸素が根に届きやすくなります。

反対に、土壌の空隙が水で満たされると、空気の通り道が減少します。

酸素の拡散速度は、水中では空気中の約1万分の1とされています。

そのため、排水性が悪く、水分が多すぎる土壌では、酸素が根に供給されにくくなります。

例えば、土耕栽培では、畝を高くしたり、硬盤層を改善したり、明渠や暗渠を設置したりすることで、排水性を改善できます。

高設栽培では、栽培槽の排水構造や培地の粒径、保水性、通気性などが重要です。

ただし、気相率が高ければ高いほど良いわけではありません。

2006年に発表された日本の研究では、いちご「章姫」を使い、ヤシガラとピート系培地の混合比率を比較しました。

その結果、ヤシガラの割合が増えると気相率が高くなりましたが、反対に液相率が低くなり、吸水量や可販果収量が低下しました。

これは非常に重要な結果です。

根に必要なのは、酸素だけでなく、適切な水分と酸素の両方です。

排水性を良くしすぎて水不足になっても、収量は減ってしまいます。

何事もバランスが大切なのです。

毎日灌水すると酸素不足になるのか?

灌水の頻度によっても、根の周囲の酸素供給環境は変わります。

例えば、同じ量の水を1週間に1回与える場合と、少量ずつ毎日与える場合では、土壌水分の変動が異なります。

1週間に1回だと土が乾燥して空気が通りやすくなりますが、一度に大量の水を与えると、灌水直後に土壌の空隙が水で満たされ、酸素供給が制限されることがあります。

一方、少量多回数の灌水であっても、毎日新しい水で酸素を供給できますが、常に過湿状態になっていれば、酸素不足になる可能性があります。

ただし、毎日灌水すること自体が悪いわけではありません。

排水性が良い高設栽培では、少量多回数の灌水によって、水分と酸素の両方を適切に供給する管理が行われています。

重要なのは灌水回数ではなく、灌水後に余分な水が排出され、根に十分な酸素が供給される状態になっているかどうかです。

夏と冬では、どちらが酸素不足になりやすいのか?

同じ水分条件で比較すると、一般的に夏の高温時の方が酸素不足になりやすいと考えられます。

理由は、温度が高いと水に溶ける酸素の量が少なくなるためです。

さらに、適温域では温度の上昇に伴って根や微生物の呼吸が活発になり、酸素消費量が増えることがあります。

ただし、冬でも酸素不足になる可能性があります。

冬は日射量や蒸発散量が減るため、夏と同じ灌水量では培地が過湿になりやすいからです。

そのため、夏は水温や地温の上昇、冬は過剰灌水による過湿に注意する必要があります。

水源によって溶存酸素濃度はどれくらい違うのか?

水には酸素が溶けています。

その量を溶存酸素濃度(DO)と呼び、通常はmg/Lで表します。

実は、水道水、井戸水、農業用水、ため池、雨水では、溶存酸素濃度が異なる場合があります。

水源溶存酸素濃度の特徴
水道水大気と接触している場合は比較的高い。ただし配水・貯水条件による
井戸水・地下水酸素が少ない場合が多いが、井戸による差が大きい
農業用水・河川水流れによって酸素が供給され、比較的高い場合がある
ため池水面・底層、昼・夜、季節による差が非常に大きい
雨水大気と接している間は酸素を含むが、貯留後の状態によって変わる

この表は一般的な傾向です。水源の種類だけで酸素濃度が決まるわけではありません。

水道水

水道水は、浄水処理や配水の過程で空気と接触するため、溶存酸素を含んでいます。

大気と十分に接触した水であれば、その水温に応じた飽和濃度に近づきます。

ただし、配水管や貯水タンクの構造、水温などによって実際の酸素濃度は異なります。

井戸水・地下水

井戸水は、大気との接触が少ないため、酸素濃度が低い場合があります。

アメリカ地質調査所(USGS)がペンシルベニア州の28本の井戸を対象に実施した調査では、溶存酸素濃度は0〜13.9mg/Lで、中央値は2.85mg/Lでした。

ただし、これは特定地域の地下水調査であり、日本全国の井戸水の平均値ではありません。

井戸水によっては酸素が豊富な場合もあります。

農業用水・河川水

流れている河川水や農業用水は、水面から酸素が供給されるため、比較的高い溶存酸素濃度になる場合があります。

農林水産省が2009年度に全国187地点で実施した農業用用水路の水質調査では、DOの年平均値は9.4mg/Lでした。

ただし、農業用水でも水路の状態や水温によって数値は変わります。

ため池

ため池は、溶存酸素濃度の変動が特に大きい水源です。

水面近くでは、大気から酸素が供給されます。

また、水中の藻類などが光合成することで、日中には酸素濃度が高くなる場合があります。

反対に、夜間には光合成が停止し、植物や微生物の呼吸によって酸素が消費されます。

さらに、夏季に水温による成層ができると、底層への酸素供給が減少し、酸素不足になることがあります。

そのため、ため池では同じ場所でも測定時刻や水深によって数値が大きく変わります。

雨水

雨水も大気と接触している間に酸素を取り込みます。

ただし、雨水をタンクに貯めると、貯留時間、微生物の活動、水温などによって溶存酸素濃度が変化します。

したがって、「雨水だから酸素が多い」「雨水だから酸素が少ない」と一律に判断することはできません。

水温によって溶存酸素濃度は変わる

水に溶ける酸素の量は、水温によって大きく変化します。

以下は、標準大気圧付近で大気と平衡状態にある淡水の酸素飽和濃度の目安です。

水温溶存酸素の飽和濃度
10℃約10.9mg/L
15℃約10.0mg/L
20℃約8.9mg/L
25℃約8.3mg/L
30℃約7.6mg/L

水温が10℃から30℃になると、水が大気と平衡状態で保持できる酸素量は約3割減少します。

なお、純酸素を供給した場合などは、この飽和濃度を超えることもあります。

ここまで見ると、溶存酸素濃度が低い水源を使用している農園では、ファインバブルの効果が期待できそうです。

しかし、注意点があります。

灌水する水の溶存酸素濃度が低くても、根が酸素不足になっているとは限りません。

例えば、井戸水の溶存酸素濃度が2mg/Lしかなくても、排水性の良い培地に灌水すれば、根は培地の気相から酸素を利用できます。

水源の酸素濃度だけで、ファインバブルが必要かどうかを判断することはできないのです。

「井戸水は溶存酸素量が少ないから、ファインバブルを使うべき」とは断定できません。

高設栽培の栽培槽や培地の種類、土壌の気相、畝の高さなども影響するためです。

水耕栽培でなければ、水の溶存酸素量だけでは決まりません。

ファインバブルでいちごの収量が増えた研究

それでは、ここから実際の研究論文を紹介します。

まずは、ファインバブルによって良い結果が得られた研究です。

中国の研究:平均108%増収した

2025年に、中国の研究グループが、いちごの地中点滴灌水にマイクロナノバブル水を使用した研究を発表しました。

論文タイトルは「Micro-nano bubble water subsurface drip irrigation affects strawberry yield and quality by modulation of microbial communities」です。

この研究では、7種類の通気処理と、通常の灌水を行う対照区を比較しました。

その結果、ファインバブル処理区では、対照区と比較して以下の変化が報告されました。

項目対照区との比較
収量平均108%増加
土壌中の酸素平均12%増加
土壌温度平均10%増加
土壌水分平均4%増加
ビタミンC平均3%増加

収量が平均108%増加したというのは、非常に大きな結果です。

また、根圏の微生物群集にも変化が見られ、研究者らは土壌環境や微生物の変化が収量や品質に関与した可能性を報告しています。

ただし、この研究結果をそのまま日本のいちご農園に当てはめることはできません。

対照区の収量水準、土壌条件、灌水方法、栽培環境などによって増収率は変わるからです。

また、酸素以外にも土壌温度や土壌水分などが変化しているため、108%の増収がすべて酸素供給によるものだと断定することもできません。

中国の研究:カリウム施肥との組み合わせで収量や品質が改善した

2023年には、マイクロナノバブル水とカリウム施肥量を組み合わせた、いちごの研究も発表されています。

研究では、通常の灌水と施肥を行う対照区に対して、ファインバブル水の割合やカリウム施肥量を変化させました。

その結果、ファインバブル水を使用した処理区では、収量や果実品質が有意に改善しました。

興味深いのは、カリウム施肥量を通常の70%に減らした条件でも、良い結果が得られたことです。

一方、ファインバブル水の割合やカリウム施肥量を増やせば増やすほど、収量が増えるわけではありませんでした。

また、土壌微生物群集の変化や土壌呼吸量の増加も確認されています。

ただし、この研究はファインバブルと施肥量を組み合わせた試験です。

そのため、結果をすべてファインバブル単独の効果とみなすことには注意が必要です。

韓国の研究:根の初期生育が改善した

2021年には、韓国の研究グループが、約100nmのナノバブルをいちご栽培に使用した研究を発表しています。

ナノバブルを含む培養液は、通常の地下水で作った培養液よりも初期の溶存酸素濃度がやや高く、その後も酸素濃度が維持されました。

研究者らは、これがいちごの初期の根の発達や生育に良い影響を与えたと報告しています。

また、排液中の硝酸濃度が低下したことから、窒素吸収への影響も考察しています。

ただし、排液の硝酸濃度は排液量などによっても変わるため、濃度が下がったことだけで吸収量の増加が証明されたわけではありません。

公開されている抄録では、収量や糖度が何%改善したかという具体的な数値までは確認できません。

フィンランドの研究:商業農園で7.9%増収した

2026年には、フィンランドの商業いちご農園で、酸素ナノバブルを使用した研究が発表されました。

品種は「Murano」です。

酸素ナノバブル水を使った区と通常の灌水区を比較したところ、ナノバブル区の累積収量が7.9%多くなりました。

また、収穫後半には果実の乾物含量や一部の無機成分濃度が高くなる傾向が見られました。

商業農園で実施された研究という点では、非常に興味深い結果です。

しかし、この研究には大きな注意点があります。

比較したのはナノバブル処理の1列と対照区の1列であり、独立した反復試験が行われていません。

そのため、7.9%の収量差が本当にナノバブルによって生じたのか、統計的に断定することはできません。

現時点では、追加検証が必要な予備的な研究結果と評価するのが適切です。

逆に、ファインバブルでいちごの収量が減少した研究

ここまでは、ファインバブルによって良い結果が得られた研究を紹介しました。

しかし、逆の結果が得られた研究もあります。

日本の研究:酸素ウルトラファインバブルで約23%減収した

玉川大学の研究グループは、いちご「よつぼし」を使用して、ファインバブルの効果を検証しています。

この研究は、玉川大学学術研究所紀要第28号に掲載され、2023年に公開されました。

比較したのは、次の3つの処理です。

  • 通常の空気によるエアレーション
  • 空気を使ったウルトラファインバブル
  • 純酸素を使ったウルトラファインバブル

さらに、培地を使用する場合と使用しない場合で、結果がどう変化するかも調べています。

その結果、培地を使用しない湛液式水耕栽培では、次のようになりました。

処理方法1株当たり収量
通常のエアレーション約480g
空気UFB約460g
酸素UFB約370g

酸素UFBを使用した区では、通常のエアレーション区より約23%減収しました。

また、この差は統計的にも有意でした。

一方、ロックウールなどの培地を使用した試験では、ファインバブルによる明確な増収効果は認められませんでした。

つまり、この研究では、ファインバブルを使うことで収量が増えるとは確認できなかったのです。

むしろ、一部の条件では収量が減少しました。

研究者らは、酸素UFBによる酸化ストレスなどが生育に影響した可能性を考察しています。

ただし、この研究だけで、すべての酸素UFBが有害だと結論づけることはできません。

それでも、「根には酸素が必要だから、酸素を増やせば必ず収量が増える」という考え方が正しくないことを示す重要な研究です。

ファインバブルを使うといちごの糖度は上がるのか?

ファインバブルは、収量だけでなく、糖度や果実品質を改善する技術として紹介されることもあります。

しかし、いちごの糖度については、現時点で一貫した改善効果が確認されているわけではありません。

玉川大学の研究では、ファインバブルによる明確な糖度改善は確認されませんでした。

一方、中国の研究では果実品質の改善が報告されています。

ただし、果実品質という言葉には、糖度だけでなく、酸度、ビタミンC、果実重なども含まれます。

そのため、ビタミンCが増加したからといって、糖度も増加したことにはなりません。

また、いちごの糖度は、品種、日射量、温度、着果負担、水分管理、収穫時期などによっても変わります。

今回調べた研究だけでは、ファインバブルによっていちごの糖度が安定して上昇すると結論づけることはできません。

ウルトラファインバブルの方が、普通のマイクロバブルより優れているのか?

ウルトラファインバブルは非常に小さく、水中で長く存在できるという特徴があります。

そのため、気泡が小さければ小さいほど植物に良い効果があると考える人もいるでしょう。

しかし、気泡の大きさと植物の生育促進効果は、単純な比例関係ではありません。

日本の研究:レタスではウルトラファインバブルで生育が改善した

2025年には、京都大学などの研究グループが、レタスの湛液式水耕栽培で気泡の大きさを比較しています。

比較したのは、通常の大きな気泡、マイクロバブル、ウルトラファインバブルです。

その結果、マイクロバブルとウルトラファインバブルでは、通常の大きな気泡を使った処理よりも生育が改善しました。

特にウルトラファインバブルでは、地上部生体重が通常の大きな気泡の処理と比較して約1.5倍になりました。

ただし、これはレタスの研究です。

いちごでも同じ効果が得られるとは限りません。

また、この結果だけで、ウルトラファインバブルがマイクロバブルよりもあらゆる条件で優れているとは言えません。

ウルトラファインバブルは本当に酸素を運んでいるのか?

2023年には、早稲田大学などの研究グループが、非常に興味深い論文を発表しています。

論文タイトルは「Do Ultrafine Bubbles Work as Oxygen Carriers?」です。

日本語にすると、「ウルトラファインバブルは酸素の運搬体として機能するのか?」という意味です。

研究では、ウルトラファインバブルの濃度と水中の酸素量の関係を調べています。

その結果、直径100〜200nmのウルトラファインバブル自体は、酸素の運搬体としてほとんど機能していないと結論づけています。

また、ファインバブル水の高い溶存酸素濃度は、主にファインバブルを発生させる過程で水に溶けた酸素によるものと考えられました。

これは、今回の記事で非常に重要な研究です。

ウルトラファインバブルが水中に長時間存在することと、長時間にわたって根に酸素を供給できることは、同じではないということです。

ただし、これは特定の条件下で酸素運搬能力を調べた研究です。

ウルトラファインバブルのすべての生理作用を否定したものではありません。

それでも、「ウルトラファインバブルが小さくて長持ちするから、必ず植物への酸素供給に優れている」という説明は、慎重に考える必要があります。

ただし、ファインバブルの効果は、「根に対する刺激によるもの」という説もあります。

その場合は、酸素は関係なく、刺激が影響しています。

ファインバブルは酸素供給以外の刺激によって植物の生育を促進するのか?

ここまでは、ファインバブルによる酸素供給の効果を中心に紹介してきました。

しかし、ファインバブルには酸素供給以外にも、「植物に刺激を与え、生育を促進する効果がある」という説があります。

例えば、植物は活性酸素種(ROS)を単なる有害物質として扱うのではなく、成長や環境への適応などを調節する情報伝達にも利用しています。

そのため、ファインバブルによって何らかの刺激が加わることで、植物の生育が変化する可能性があります。

実際に、興味深い研究が報告されています。

酸素濃度が同じでも発芽が促進された研究

Oshitaら(2023年)は、オオムギの種子にウルトラファインバブル水を使用した研究を発表しました。

この研究では、溶存酸素濃度を同じ8.2mg/Lに調整した予備実験でも、通常の水よりウルトラファインバブル水の方が発芽率が高くなりました。

また、ウルトラファインバブルの個数濃度を高めると発芽が早くなりましたが、過剰に増やすと逆に発芽が抑制されました。

研究者らは、活性酸素種による刺激が関係している可能性を考察しています。

つまり、単に酸素を増やすこと以外にも、植物に作用している可能性があるのです。

ただし、これはオオムギの種子発芽の研究であり、いちごの根の生育や収量への効果を証明したものではありません。

植物ホルモンや遺伝子の働きが変化した研究

Wangら(2021年)は、イネにナノバブル水を使用した研究を発表しました。

その結果、根の伸長が促進され、植物ホルモンであるジベレリンの合成や、養分吸収に関係する遺伝子の発現にも変化が見られました。

このことから、ナノバブルが植物の生理的な反応に影響を与えている可能性があります。

ただし、植物ホルモンや遺伝子の働きが変化したからといって、それが気泡による直接的な刺激によって起きたと断定することはできません。

活性酸素種による刺激という説には反論もある

一方、Chaeら(2023年)は、ナノバブルによる活性酸素種の発生を詳しく調べました。

その結果、調査した条件では、活性酸素種の一種であるヒドロキシルラジカル(・OH)の明確な発生は確認されませんでした。

また、過去の研究で活性酸素種の検出に使用された試薬が、別の化学反応によって陽性を示していた可能性も指摘しています。

つまり、ファインバブルが活性酸素種を発生させ、それが植物を刺激して生育を促進するという仕組みは、まだ確立されていないのです。

酸素供給以外の効果も考えられるが、まだ研究段階

以上の研究から、ファインバブルには酸素供給以外にも植物の生育を変化させる作用がある可能性があります。

ただし、それが活性酸素種による刺激なのか、気泡表面の電気的性質なのか、あるいは別の要因なのかは、十分に解明されていません。

また、刺激によって生育が促進される場合もあれば、抑制される場合もあります。

ファインバブルには酸素供給以外の効果がある可能性がありますが、作用機序はまだ確定しておらず、いちごの根の生育改善や増収につながるかどうかも不明です。

ファインバブルの効果は、普通のエアレーションでも得られるのでは?

ここまで紹介した研究から、もう一つ重要な疑問が生まれます。

それは、「ファインバブルによる増収が、単に溶存酸素濃度を高めた効果ではないのか?」ということです。

例えば、通常のエアポンプを使用して水に空気を送り込んでも、溶存酸素濃度を高めることができます。

酸素供給が不足している水耕栽培であれば、通常のエアレーションでも根の生育が改善する可能性があります。

そうであれば、高価なファインバブル発生装置を購入する必要はないかもしれません。

ファインバブル独自の効果を証明するためには、通常のエアレーションとファインバブルで溶存酸素濃度を同程度にしたうえで、植物の生育を比較する必要があります。

また、装置による水流や撹拌、温度変化などの影響も区別する必要があります。

今回確認したいちごの研究では、こうした要因を完全に切り分けられていないものもあります。

そのため、増収した研究があることと、ファインバブル特有の優れた効果が証明されたことは、分けて考える必要があります。

排水性が悪い土壌や培地でも、ファインバブルを使用すれば改善するのか?

いちご栽培で根の生育が悪い場合、まず疑うべきなのが土壌や培地の状態です。

特に、排水不良や過湿によって、根に十分な酸素が供給されていない可能性があります。

このような場合、ファインバブル水を使用すれば、根に酸素を供給できるかもしれません。

しかし、問題はそこからです。

ファインバブルを使用しても排水性は改善しない

例えば、排水性が非常に悪い培地や畝にファインバブル水を与えたとします。

灌水直後には酸素が供給される可能性があります。

しかし、培地が常に過湿状態で、酸素を含む空気が外部から供給されにくければ、酸素不足が再び起こる可能性があります。

ファインバブルを使用しても、培地の気相率が増えたり、栽培槽の排水穴が大きくなったりするわけではありません。

そのため、排水不良の根本的な解決にはなりません。

土耕栽培では高畝化や圃場排水が重要

土耕栽培で排水性が悪い場合には、高畝化、明渠や暗渠の設置、硬盤層の改善などが重要です。

畝を高くすることで、根が存在する部分を過湿状態から守りやすくなります。

ただし、畝間に水が溜まっている場合には、圃場外へ排水する仕組みも必要です。

高設栽培では栽培槽の構造と培地の物理性が重要

高設栽培では、栽培槽の底に水が溜まらない構造になっているか、排水口が十分にあるか、培地の通気性と保水性が適切かを確認する必要があります。

例えば、排水口が少なかったり、培地の粒子が細かすぎたりすると、培地の底部に水分が滞留しやすくなります。

このような状態では、ファインバブルよりも栽培槽や培地の改善を優先した方がよい場合があります。

ファインバブルを使い続けると根腐れするのか?

ファインバブルを連用すること自体が、いちごの根腐れを引き起こすという十分な根拠はありません。

しかし、ファインバブル水だからといって、大量に灌水しても根が酸素不足にならないわけではありません。

排水性が悪い培地に大量の水を与え続ければ、酸素供給が不足して根が傷む可能性があります。

一方、酸素を必要以上に増やすことにも注意が必要です。

先ほど紹介した玉川大学の研究では、酸素ウルトラファインバブルによって減収する結果が得られています。

そのため、ファインバブルの使用量や酸素濃度を増やせば増やすほど良いと考えるべきではありません。

ファインバブル以外にも土壌や培地に酸素を供給する方法はある

根への酸素供給を改善する方法は、ファインバブルだけではありません。

農業資材を使って酸素を供給したり、土壌や培地の通気性を改善したりする方法もあります。

過酸化カルシウムを使用した酸素供給剤

過酸化カルシウム(CaO₂)は、水分と反応して酸素を放出する化合物です。

日本でも、過酸化カルシウムを利用した農業用の酸素供給資材が販売されています。

水分が多く、酸素が不足しやすい環境で利用されることがあります。

ただし、反応によって水酸化カルシウムが生成するため、土壌pHなどへの影響にも注意が必要です。

また、いちごで増収するかどうかは、施用量や土壌条件によって異なります。

過酸化水素を使用した酸素供給剤

過酸化水素(H₂O₂)は、分解すると水と酸素になります。

そのため、水耕栽培や灌水で酸素供給を目的に利用されることがあります。

一方、過酸化水素は酸化作用が強く、濃度によっては根の細胞や微生物に悪影響を与える可能性があります。

単に酸素を増やしたいという目的で、高濃度の過酸化水素を使用することは適切ではありません。

農業用の適合製品であることや、使用方法を確認する必要があります。

過酸化マグネシウムを使用した酸素供給剤

過酸化マグネシウム(MgO₂)も、水分と反応して酸素を放出する化合物です。

比較的ゆっくり酸素を放出する資材として研究されています。

ただし、いちご栽培での有効性や費用対効果については、十分な情報があるとは言えません。

パーライトやもみ殻などの土壌改良資材

パーライト、軽石、もみ殻などは、土壌や培地の物理性を改善するために使用されます。

これらは化学反応によって酸素を発生させる資材ではありません。

土壌や培地の空隙を確保することで、根に酸素が供給されやすい環境を作ることが目的です。

ただし、資材の粒径や混合割合によって、通気性や保水性は変わります。

もみ殻などの有機物は、分解時に微生物が酸素を消費する可能性もあります。

また、先ほど紹介したヤシガラの研究のように、気相率を高めすぎて水分不足になれば、逆に収量が減少する場合もあります。

エアレーションによる酸素供給

水耕栽培では、エアポンプなどによるエアレーションが一般的な酸素供給方法です。

通常の気泡でも、水に酸素を溶かすことができます。

ファインバブル発生装置と比較して、どちらが安価で効率的かは、処理する水量、目標とする酸素濃度、消費電力などによって異なります。

したがって、酸素供給を目的とする場合には、ファインバブル以外の方法も比較することが重要です。

ファインバブルはどのようないちご農園に必要なのか?

ここまでの研究結果をもとに考えると、ファインバブルはすべての農園に必要な技術ではありません。

効果が期待できるのは、根圏の酸素供給が不足していて、酸素を追加することで問題を改善できるような条件です。

例えば、湛液式水耕栽培で溶存酸素濃度が不足している場合や、水源の溶存酸素濃度が低く、既存の酸素供給方法では十分に改善できない場合などが考えられます。

一方、排水性や通気性が良好で、根が酸素不足になっていない農園では、ファインバブルを使用しても効果が小さい可能性があります。

もちろん、酸素供給以外の作用によって効果が現れる可能性は否定できません。

しかし、それを理由にすべての農園に導入を推奨できる段階でもありません。

根の生育が悪い農園で、まず確認するべきこと

いちごの根の生育が悪い場合には、最初からファインバブル発生装置の導入を考えるのではなく、次の順番で確認するのが合理的です。

①根の生育不良の原因を調べる

根の生育不良には、酸素不足以外にも、高温、低温、肥料濃度、pH、水分不足、病害など、さまざまな原因があります。

まず原因を調べることが重要です。

②土壌や培地の排水性・通気性を確認する

土耕栽培では、畝の高さ、硬盤層、圃場全体の排水性などを確認します。

高設栽培では、培地の物理性、栽培槽の排水構造、排水口の詰まりなどを確認します。

③灌水量と灌水頻度を改善する

水分が多すぎても、少なすぎても根の生育に悪影響があります。

根に十分な水分と酸素を供給できるように管理を調整します。

④それでも酸素不足が疑われる場合は測定する

水源や培養液の溶存酸素濃度、水温、培地の含水率、根圏の酸素状態などを確認します。

土耕栽培や培地栽培では、灌水水の溶存酸素濃度だけで根の酸素不足を判断できない点にも注意が必要です。

⑤必要なら酸素供給技術を比較する

ファインバブル、通常のエアレーション、酸素供給剤などを比較して、根の生育や収量が実際に改善するか検証します。

ファインバブルで収量が増えても、利益が増えるとは限らない

ファインバブルの導入を検討する場合には、増収効果だけでなく費用対効果も重要です。

例えば、10aのいちご農園で、年間収量6,000kg、平均販売単価1,200円/kgと仮定します。

この場合、年間売上は720万円です。

ファインバブルによって収量が増えた場合の売上増加額は、次のようになります。

増収率売上増加額
1%7.2万円
3%21.6万円
5%36万円
10%72万円

仮に5%増収しても、売上増加額は年間36万円です。

ここから装置の導入費用、電気代、保守費用、増収に伴う収穫・出荷費用などを考慮する必要があります。

例えば、装置価格が100万円で、5年間使用し、年間維持費が10万円かかると仮定すると、5年間で合計150万円の支出になります。

年間平均では30万円です。

この場合、単純計算では年間30万円を超える追加売上が必要です。

さらに、増収分の追加経費(人件費など)も必要なので、実際にはそれ以上の売上増加が求められます。

しかも、ファインバブルで5%増収するかどうかも、農園の栽培条件によって異なります。

ファインバブルに増収効果があることと、ファインバブル発生装置を購入すると利益が増えることは別問題です。

なぜファインバブルは農業分野で注目されているのか?

ここまで調べて、ファインバブルが農業分野で注目される理由についても考えてみました。

私が考える理由は、大きく3つあります。

科学的にもっともらしい理論がある

植物の根には酸素が必要です。

酸素不足になると、生育が悪くなることも事実です。

そして、ファインバブルを使えば、水に酸素を供給できます。

ここまでは科学的に説明できます。

しかし、そこから「ファインバブルを使えば、いちごの収量が増える」と結論づけることはできません。

実際に根が酸素不足になっているかどうか、普通のエアレーションよりも効果があるかどうかなどを検証する必要があるからです。

もっともらしい理論があることと、実際の農園で効果が証明されていることは違います。

効果が分かりにくい

農業では、収量が多い年もあれば、少ない年もあります。

気温、日射量、苗質、品種、灌水管理、病害虫など、多くの条件が影響するからです。

例えば、ファインバブル装置を導入した翌年に収量が5%増えたとしても、その原因がファインバブルだったとは限りません。

反対に、増収しなかった場合でも、酸素不足ではなかったから効果が出なかったという説明は可能です。

つまり、適切な比較試験を実施しないと、効果を判断しにくい技術なのです。

なお、これはファインバブルを販売する企業が意図的に効果を誇張しているという意味ではありません。

ただし、装置の販売実績や利用者の感想だけでなく、客観的な比較試験の結果を確認することは重要です。

導入後の手間が比較的少ない

ファインバブル発生装置は、既存の灌水設備に組み込んで使用できる場合があります。

そのため、導入後の日常管理の手間が比較的少ないことも魅力です。

一方、土耕栽培で排水性を改善するために高畝化したり、暗渠を設置したりするには、大きな作業が必要です。

高設栽培でも、培地の交換や栽培槽の改修には費用や労力がかかります。

そのため、「設備を追加するだけで収量が増える可能性がある」と聞けば、導入したくなる気持ちも理解できます。

しかし、手軽に導入できることと、効果があることは別です。

ファインバブル発生装置にも、初期投資や電気代、保守費用、修理費用などがかかります。

そのため、農園にとって本当に必要な技術かどうかを判断する必要があります。

まとめ:ファインバブルは必須ではなく特定の条件で役立つ可能性がある

今回は、ファインバブルによっていちごの根の成長や収量が改善するのか、日本と海外の研究論文を調べてみました。

その結果、ファインバブルを使用することで収量が増えた研究がありました。

中国では平均108%の増収を報告した研究があり、フィンランドの商業農園でも7.9%の増収が観察されています。

一方、日本の玉川大学の研究では、酸素ウルトラファインバブルを使用することで約23%減収した結果が報告されています。

つまり、ファインバブルを使用すれば必ずいちごの収量が増えるわけではありません。

また、いちごの糖度が安定して向上するという科学的根拠も、現時点では十分ではありません。

私が今回の調査で最も重要だと考えたのは、そもそも、いちごの根が酸素不足になっているのか? ということです。

根に酸素が必要なのは事実ですが、排水性や通気性が良い土壌や培地では、空気から十分な酸素が供給されている可能性があります。

ファインバブルを使わなくても、反収で7トン以上を達成している農園はたくさんあります。

そのような環境で、さらに酸素を供給しても、増収効果が得られるとは限りません。

いちごの根の生育不良で悩んでいる農園では、まず生育不良の原因を調べ、土壌や培地の排水性、通気性、灌水方法などを改善することが重要です。

そのうえで、根の酸素不足が問題になっている場合には、ファインバブルや通常のエアレーションなど、酸素を供給する技術を比較する価値があります。

また、ファインバブルの導入によって収量が増えるだけでなく、装置の費用を上回る利益が得られるかどうかも重要です。

ファインバブルは、科学的根拠がまったくない技術ではありません。

しかし、すべてのいちご農園に必要な技術でもありません。

特定の条件では効果を発揮する可能性がありますが、導入する前に、自分の農園で何が問題になっているのかを確認するべきだと考えます。

農業では、新しい技術を導入すること自体が目的ではありません。

できるだけ小さなコストで、収量と販売単価を高め、利益を増やすことが重要です。

ファインバブルについても、その視点から冷静に評価する必要があると思います。

なお、ファインバブルには、酸素供給以外の刺激によって植物の生育を変化させる可能性も指摘されています。

しかし、その仕組みはまだ解明されておらず、いちごの根の生育や収量を安定して改善できるという根拠は十分ではありません。

そのため、酸素不足が発生していない農園でもファインバブルに効果がある可能性は否定できませんが、それを理由に導入を推奨できる段階ではないと考えます。

参考文献・引用元

ファインバブルといちご栽培の研究

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    https://doi.org/10.21273/HORTTECH05908-26

ファインバブルの仕組みと比較研究

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    https://doi.org/10.2525/ecb.63.11

土壌・培地・酸素供給に関する研究と資料

ファインバブルの刺激について

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  • Chae, S. H. et al.(2023)“Nanobubble Reactivity: Evaluating Hydroxyl Radical Generation (or Lack Thereof) under Ambient Conditions.” ACS ES&T Engineering, 3(10), 1504–1510.
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