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最近、農業の展示会やニュースなどで「アクアポニックス」という栽培方法を目にする機会が増えました。

アクアポニックスとは、魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた生産方法です。

魚の排泄物を植物の肥料として利用することで、魚と野菜を同時に生産できます。

水や肥料を節約できる、魚と野菜の両方を販売できる、環境に優しいなど、魅力的なメリットが紹介されています。

私はイチゴビジネスの専門家として、アクアポニックスに興味を持っています。

しかし、商業的な農業生産方法としての収益性については、以前から疑問を持っていました。

なぜなら、農業ビジネスで重要なのは、生産コストを抑えながら、生産量と販売単価を高め、十分な利益を出すことだからです。

魚と野菜を同時に育てることができても、それぞれを別々に育てる場合より生産コストが高くなってしまえば、経営上のメリットはありません。

また、アクアポニックスで育てたという理由だけで、野菜や魚を高く販売できるとも限りません。

そこで今回は、アクアポニックスは本当に儲かるのか、世界の研究論文や実際の商業農園、倒産・撤退した農園の事例などを調べてみました。

最初にお伝えしておくと、アクアポニックスという栽培技術を否定する記事ではありません。

技術的なメリットや、環境教育などの用途での価値はあると思います。

ただし、農業経営として考えた場合に、十分な利益を出せるのかは、別の問題です。

アクアポニックスとは?

アクアポニックスは、魚の養殖を意味する「Aquaculture」と、水耕栽培を意味する「Hydroponics」を組み合わせた言葉です。

通常の魚の養殖では、魚に餌を与えることで、排泄物や食べ残した餌が発生します。

排泄物に含まれるアンモニアは魚にとって有害ですが、微生物の働きによって亜硝酸を経て硝酸に変換できます。

一方、植物は硝酸などを窒素源として利用します。

そこで、魚の飼育水をろ過して植物に与え、植物に養分を吸収させる仕組みがアクアポニックスです。

魚が排泄した養分を植物が利用するため、通常の養液栽培より肥料の使用量を削減できる可能性があります。

また、魚の飼育水を再利用することで、水の使用量や排水量を削減できる場合もあります。

アクアポニックスで育てられる魚と野菜

魚ではティラピア、ナマズ、コイ、錦鯉、金魚、ニジマス、サーモン、チョウザメなどが利用されています。

野菜ではレタス、バジル、ケール、チンゲンサイ、クウシンサイなどの葉物野菜が代表的です。

ほかにもトマト、キュウリ、ピーマン、イチゴなどの果菜類を育てる研究も行われています。

ただし、魚と野菜の組み合わせによって、育てやすさは大きく異なります。

例えば、ニジマスは比較的低い水温を好みますが、ティラピアは高い水温を好みます。

野菜にもそれぞれ適した温度があるため、どの魚とどの野菜を組み合わせても効率よく生産できるわけではありません。

なぜアクアポニックスは新規参入企業に注目されるのか?

アクアポニックスに農業以外の企業が関心を持つ理由はいくつか考えられます。

ただし、日本の新規参入企業を対象に、導入理由を網羅的に調査した統計は確認できませんでした。

そのため、以下には実際の企業の取り組みと、私自身の考察の両方が含まれます。

新しい農業技術として魅力的に見える

通常の土耕栽培や養液栽培は、長年利用されてきた技術です。

一方、アクアポニックスは魚と野菜と微生物を組み合わせて養分を循環させるため、「最新農業技術」として紹介しやすい特徴があります。

農業への新規参入を検討する企業にとって、目新しい生産方法は魅力的に映るでしょう。

特に、既存の農園と差別化したい企業には、話題性のある技術です。

しかし、他社と違う方法で生産していることと、他社より儲かることは別です。

生産方法の新規性が、収量の増加や生産コストの削減につながるとは限りません。

SDGsや環境配慮をアピールしやすい

アクアポニックスは、水や養分を再利用する仕組みがわかりやすく、SDGsや環境配慮を説明しやすい特徴があります。

企業の環境活動や広報、社員教育、子ども向けの食育などにも利用できます。

例えば、魚に餌を与え、その魚の排泄物から生まれた養分で野菜を育て、収穫した野菜を食べるという体験は、子どもにとって非常にわかりやすい環境教育になるでしょう。

私は、このような用途にはアクアポニックスの価値があると思います。

ただし、環境負荷が必ず小さくなるとは限りません。

水や肥料を節約できても、ポンプ、ろ過装置、加温・冷却設備、人工照明などに電力が必要になるためです。

2020年に発表された論文「Comparative life cycle assessment of aquaponics and hydroponics in the Midwestern United States」では、条件によってアクアポニックスの環境負荷が通常の養液栽培より小さくなる結果が示されました。

一方、電源構成によっては、その優劣が逆転する可能性も指摘されています。

参考:Comparative life cycle assessment of aquaponics and hydroponics in the Midwestern United States

つまり、資源を循環させることにはメリットがありますが、環境負荷を総合的に評価する必要があります。

なお、一般的な水耕方式のアクアポニックスでは、日本の有機JAS認証を取得できません。

有機JAS認証で必須の「土づくり」をしていないためです。

化学肥料を使用していなくても、有機農産物として表示できるわけではない点には注意が必要です。

展示会やメディアで見かける機会がある

農業の展示会でも、アクアポニックスのシステムが紹介されています。

こうした展示を見れば、農業への新規参入を考える企業が興味を持つのは自然なことでしょう。

ただし、農業の展示会は設備や資材を販売する企業が出展し、見込み客を獲得するための場所です。

展示会で注目されている技術が、実際の農業経営でも高い利益を生み出しているとは限りません。

アクアポニックスは実際に儲かっているのか?

ここからが今回の記事の本題です。

アクアポニックスが儲かるのかを調べるために、商業的なアクアポニックスの経営状況を調査した研究論文を確認しました。

世界257件の調査では、黒字と回答したのは31%

2015年に発表された論文「Commercial aquaponics production and profitability: Findings from an international survey」では、世界のアクアポニックス関連の商業活動257件を調べています。

回答者の81%は米国で、残りは22か国からの回答でした。

調査の結果、直近12か月間に利益が出ていると回答したのは31%でした。

逆に言えば、約69%は黒字と回答していません。

ただし、この調査は事業開始から間もない企業も多く含まれており、すべてが長期間赤字を続けているという意味ではありません。

そして、もう一つ興味深い結果がありました。

257件の事業内容を分類すると、以下のようになっていました。

事業内容件数
魚や野菜だけを販売95件
魚・野菜と設備・サービスの両方を販売93件
設備・サービスだけを販売69件
合計257件

つまり、魚や野菜だけを販売していたのは全体の約37%でした。

残りの約63%は、設備販売やコンサルティング、研修などを組み合わせていたか、そうした事業だけを行っていました。

さらに、設備や資材、サービスなどを販売している事業の方が、黒字になる傾向がありました。

参考:Commercial aquaponics production and profitability: Findings from an international survey(Love et al., 2015)

欧州の調査では59%が黒字と回答

2023年に発表された論文「Technical and Business Evaluation of Professional Aquaponics in Europe」では、欧州の専門的なアクアポニックス施設を調べています。

研究者は140の施設を特定し、そのうち46施設から回答を得ました。

その結果、回答施設の約59%が利益を出していると申告しました。

2015年の研究より黒字の割合が高くなっています。

しかし、これをもってアクアポニックスの収益性が改善したと断定することはできません。

調査した地域、対象施設、回答者などが異なるからです。

また、この調査には、農産物を生産する企業だけでなく、教育施設や非営利団体なども含まれています。

論文では、アクアポニックスの事業が農産物販売だけに依存しておらず、教育やサービスを組み合わせていること、ボランティアやインターンなどの無償労働に依存している施設があることも指摘されています。

参考:Technical and Business Evaluation of Professional Aquaponics in Europe(Raulier et al., 2023)

農産物販売だけで継続的に儲かっている農園は何割?

今回、私が最も知りたかったのは、この数字です。

アクアポニックスを導入した農園のうち、魚や野菜の販売収入だけで、継続的に十分な利益を出している農園は何割あるのでしょうか。

残念ながら、今回確認した研究では、その割合を正確に知ることはできませんでした。

なぜなら、調査に含まれる事業の中には、設備販売、研修、コンサルティング、観光などで収入を得ている企業もあるからです。

さらに、経営者が無報酬で働いていたり、ボランティアを利用していたりする場合、人件費が通常の農業企業より少なく計上される可能性があります。

私は、農業経営の成功を判断するには、単年度の黒字だけでは不十分だと思います。

従業員に適正な賃金を支払い、設備の減価償却や更新費用を考慮しながら、複数年にわたって十分な利益を確保できることが重要です。

現時点では、アクアポニックスによる農産物販売だけで、長期間安定して儲かっている農園の割合は不明です。

商業的にアクアポニックスを行っている企業の事例

それでは、実際に商業的なアクアポニックスを行っている企業を見てみましょう。

ここでは、商業生産や販売の実績が確認できる施設を紹介します。

ただし、農産物の生産・販売実績があることと、黒字経営であることは区別して考えます。

ECF Farmsystems(ドイツ)

ECF Farmsystemsは、ドイツでアクアポニックス関連施設の開発や運営を行っている企業です。

ベルリンでは2015年に約1,800㎡の施設を建設しました。

同社の公開情報によると、この施設では年間30トン規模の養殖設備と、年間45万鉢のバジル生産能力を持ち、2018年から2025年にかけてスーパーのREWEに供給していました。

また、同社はドイツ国内やベルギーなどで、商業的な屋上農園の開発にも関わっています。

参考:ECF Farmsystems公式サイト

ECFは比較的大規模な商業生産の実績がある企業です。

ただし、同社は農産物の販売だけでなく、農業施設の開発や運営なども手掛けています。

そのため、農産物販売だけでどれくらいの利益を得ているのかは、公開情報から判断できませんでした。

Superior Fresh(米国)

Superior Freshは、米国ウィスコンシン州で陸上養殖と植物栽培を組み合わせた事業を展開してきた企業です。

2017年にアトランティックサーモンの陸上養殖と温室での葉物野菜の栽培を開始しました。

2019年には温室施設を拡張し、年間約1360トンの葉物野菜を生産できる規模になったと公表しています。

参考:Superior Fresh公式サイト・企業沿革

大規模な魚と野菜の複合生産が技術的に可能であることを示す事例です。

ただし、現在の養殖と野菜栽培の事業構成や、農場全体の継続的な純利益、投資回収の実績については、十分な情報を確認できませんでした。

Ouroboros Farms(米国)

Ouroboros Farmsは、カリフォルニア州でアクアポニックス農園を運営している企業です。

錦鯉やナマズを飼育しながら、レタス、ケール、シソなどを栽培しています。

同社は野菜や魚の販売だけでなく、農園見学、研修、コンサルティング、栽培システムや資材の販売も行っています。

参考:Ouroboros Farms公式販売サイト

つまり、農産物販売だけではなく、複数の収益源を組み合わせたビジネスモデルです。

このような事業は、農産物生産単独とは分けて採算性を評価する必要があります。

商業生産していることと、儲かっていることは違う

ここまで3つの企業を紹介しました。

いずれも商業的な生産・販売や関連事業の実績が確認できる企業です。

しかし、今回確認した公開情報だけでは、これらの農園が農産物販売だけで長期的に十分な利益を出しているとまでは判断できませんでした。

これは、赤字だと確認されたという意味ではありません。

利益や投資回収に必要な詳細情報が公開されていないということです。

農業の新規参入を検討するときには、農園の広さや生産量だけでなく、実際の利益や投資回収期間を確認する必要があります。

アクアポニックス農園が倒産・撤退した事例

次に、商業化を目指したものの、事業を継続できなかった事例を紹介します。

こちらも重要な研究材料です。

なお、法的な倒産と、農場の閉鎖や事業からの撤退は異なります。

以下では、それぞれの状況を区別して説明します。

Sweet Water Organics(米国):2013年に生産停止・事業清算

Sweet Water Organicsは、2008年に米国ウィスコンシン州ミルウォーキーで設立されたアクアポニックス農園です。

魚や野菜などを生産し、地元の飲食店などへの販売を行っていました。

2011年には、市から25万ドルの融資を受けています。

しかし、計画した雇用目標の達成などに問題が発生し、最終的に事業を継続できなくなりました。

2013年には生産を停止し、市は融資の担保となっていた設備などを回収・売却する手続きを進めました。

参考:ミルウォーキー市議会の公的記録

この事例からわかるのは、魚と野菜を生産して販売先を確保していても、事業計画どおりの経営ができるとは限らないということです。

FarmedHere(米国):2017年に農場閉鎖

FarmedHereは、米国シカゴ近郊で屋内型の農業施設を運営していた企業です。

アクアポニックスなどの技術を利用し、葉物野菜やハーブを生産していました。

一時は米国最大級の屋内農場として紹介されていましたが、2017年3月に農場を閉鎖しました。

園芸業界誌「GrowerTalks」によると、閉鎖の理由として親会社が挙げたのは、人件費、エネルギー費、市場競争の問題でした。

参考:FarmedHere Shuts Down(GrowerTalks, 2017)

この事例は、屋内植物工場全般の課題とも重なります。

環境を人工的に制御して安定生産できたとしても、電気代や人件費が高ければ、一般的な農産物の価格では利益を確保できない場合があります。

ただし、閉鎖の原因をすべてアクアポニックスという方式だけに求めることはできません。

Urban Organics(米国):2019年に事業閉鎖

Urban Organicsは、米国ミネソタ州で魚と野菜の複合生産を行っていた企業です。

水処理関連の大手企業Pentairが出資・支援していました。

2017年には約8,080㎡の大規模な屋内アクアポニックス施設を開設しました。

しかし、2019年5月にPentairが事業閉鎖を発表し、同年6月に運営を終了しました。

報道によると、施設には約1,200万ドルが投じられていました。

参考:Pentair to close Urban Organics(Refrigerated & Frozen Foods, 2019)

水処理分野の大手企業が技術や資金を投入しても、商業的な成功が保証されるわけではありません。

ただし、公開情報だけでは、閉鎖に至った損益や事業上の判断のすべてを確認できるわけではありません。

大規模な陸上養殖でも倒産事例がある

アクアポニックスと関連する技術として、陸上養殖があります。

近年は、大規模な閉鎖循環式陸上養殖(RAS)が注目されています。

しかし、陸上養殖でも経営が難航した事例があります。

例えば、フィンランドのFifaxは、閉鎖循環式の陸上養殖に取り組んでいましたが、2025年7月に破産を申し立て、裁判所から破産宣告を受けました。

参考:Fifaxの破産に関する公式発表

また、ノルウェーのGaia Salmonも、施設運営や資金調達などの問題を抱え、2025年10月に破産を申し立てました。

参考:Gaia Salmon goes bust(LandbasedAQ, 2025)

ただし、陸上養殖全体が儲からないという意味ではありません。

従来型の陸上養殖には、長年商業的に行われている事業もあります。

問題は、大規模な設備投資と運転費に見合うだけの利益を生み出せるかどうかです。

倒産・閉鎖した企業に共通する問題

今回調べた企業では、初期投資、人件費、電気代、販売価格、資金調達などが経営上の問題として見られました。

魚や野菜を生産する技術があっても、利益が出なければ経営を続けられません。

ただし、今回紹介したのは失敗事例を選んで調査した結果です。

これらの事例から、アクアポニックス全体の倒産率や失敗率を計算することはできません。

なぜアクアポニックスは儲かりにくいのか?

ここからは、農業経営の観点で、アクアポニックスの課題を考えてみます。

初期投資が大きい

アクアポニックスでは、基本的に魚の養殖設備と野菜の水耕栽培設備の両方が必要です。

魚の水槽、ろ過装置、ポンプ、曝気装置、配管、栽培槽、温室など、さまざまな設備が必要になります。

ただし、単純に設備が多いから高額になるとは限りません。

両者の設備や配管を共有することで、費用を削減できる部分もあります。

重要なのは、同じ生産規模の魚と野菜を独立して生産する場合に比べて、初期投資と運転費の合計がどれだけ変わるかです。

設備費が高くても、それ以上に利益が増えれば問題ありません。

しかし、追加した設備に見合うだけの収益が得られなければ、投資回収が難しくなります。

魚と野菜の両方を管理する必要がある

魚の養殖では、水温、溶存酸素、アンモニア、亜硝酸、給餌量、疾病などを管理する必要があります。

一方、野菜栽培では、気温、日射量、湿度、肥料濃度、病害虫、生育状況などを管理する必要があります。

つまり、魚と野菜の両方について専門的な技術が必要です。

通常の養液栽培に比べ、管理すべき項目が増えるため、人件費や技術者の教育費が増加する可能性があります。

さらに、魚と野菜の販売先は必ずしも同じではありません。

野菜はスーパーや青果卸、飲食店などに販売できますが、魚は水産卸や鮮魚店など、別の販路が必要になる場合があります。

魚と野菜で最適な生育環境が異なる

これはアクアポニックスの根本的な課題です。

魚の養殖と野菜の栽培では、適切な水温やpH、必要な養分濃度などが異なります。

また、魚の排泄物だけでは、植物に必要なカリウム、カルシウム、鉄などが十分に供給されない場合があります。

通常の養液栽培であれば、植物の生育に合わせて肥料成分を調整できます。

しかし、アクアポニックスでは、魚への影響も考慮する必要があります。

そのため、魚と野菜の両方にとって最適な環境を作ることが難しくなる場合があります。

最近では、この問題を解決するために、魚と野菜の水質管理を分ける「分離型アクアポニックス」も研究・導入されています。

2026年のレビュー論文では、一体型と分離型のどちらかが一貫して高い生産性を示すという証拠は、まだ十分ではないとされています。

参考:Coupled vs. decoupled aquaponics: Evidence, mechanisms, and methodological gaps in the productivity hypothesis(2026)

分離型にすると魚と野菜をそれぞれ最適な条件で管理しやすくなりますが、これは独立した養殖と養液栽培に近い考え方でもあります。

魚の排泄物だけでは肥料を十分に賄えない場合がある

アクアポニックスのメリットとして、魚の排泄物を肥料として利用できることが紹介されています。

これは正しい説明です。

しかし、魚の排泄物に含まれる肥料成分の割合と、野菜が必要とする肥料成分の割合は一致しません。

例えば、魚の飼育水中では植物に必要なカリウムや鉄が不足する場合があります。

そのため、追加で肥料成分を補給する必要が生じることがあります。

また、野菜が必要とする養分量は生育段階によって変化しますが、魚の排泄物から供給される養分量は給餌量などに左右されます。

結果として、養分供給量と野菜の養分要求量が一致しない可能性があります。

魚の排泄物を利用できることはメリットですが、通常の養液栽培で使用する肥料をすべて削減できるとは限りません。

魚と野菜の生産量を自由に決めにくい

通常の農業経営では、販売先の需要に合わせて生産量を決めます。

例えば、年間100トンのレタスを販売できるなら、その量に合わせて栽培面積を決定します。

ところが、アクアポニックスでは野菜の生産量と魚の給餌量・養分供給量のバランスも考える必要があります。

魚を増やすと養分供給量が増えますが、魚の販売先が十分にあるとは限りません。

反対に、野菜の生産量を増やしたくても、魚から供給される養分が不足する場合があります。

もちろん、分離型システムや肥料の追加などによって調整は可能です。

しかし、通常の養液栽培よりも制約が増える可能性があります。

アクアポニックスだから高値で売れるとは限らない

農産物を生産するうえで、販売単価は非常に重要です。

仮にアクアポニックスで作ったレタスを、通常の養液栽培のレタスより高く販売できるなら、追加の設備費や管理費を回収しやすくなります。

しかし、消費者はアクアポニックスという生産方法に、どれくらい価値を感じるのでしょうか。

2017年に発表された欧州の消費者調査では、農産物の特徴による追加支払意思が調べられました。

結果は以下のとおりです。

農産物の特徴高くても購入したい人の割合
農薬・除草剤・抗生物質等の不使用約54%
地元で生産された農産物約41%
アクアポニックスで生産された農産物約17%

参考:Commercial Aquaponics Approaching the European Market(2017)

この調査では、アクアポニックスという栽培方法そのものよりも、農薬などの不使用や地元産であることを評価する人が多い結果でした。

ただし、国や調査方法によって消費者の評価は異なり、アクアポニックスに追加料金を支払いたい消費者が存在することも、ほかの研究で示されています。

大切なのは、実際に販売する地域や顧客において、高値で購入してもらえるかどうかです。

いちごのアクアポニックスは儲かるのか?

いちごでもアクアポニックスの研究が行われています。

例えば、2025年の研究では、アクアポニックスと通常の養液栽培で、いちごの収量に統計的な有意差が認められなかったと報告されています。

参考:Evaluating hydroponics and aquaponics: Comparative insights into sustainability and strawberry quality(2025)

一方、2026年の別の研究では、土耕栽培や養液栽培と比較して、アクアポニックスのいちごの総収量が少ない結果でした。

参考:Comparative Quality of Garden Strawberries Produced in Soil and Soilless Sustainable Urban Systems(2026)

つまり、いちごをアクアポニックスで育てることは可能ですが、通常の栽培方法より収量や品質が優れているとは限りません。

また、いちごの生産では、収量だけでなく、収穫時期、果実の大きさ、糖度、日持ち、秀品率なども重要です。

肥料代を節約できても、収量や秀品率が低下すれば、経営上は不利になる可能性があります。

さらに、アクアポニックスで栽培したいちごを、通常のいちごより高く購入してくれる顧客がどれくらいいるのかという問題もあります。

現時点では、いちごのアクアポニックス栽培が、通常の養液栽培より経済的に優れているという十分な証拠は確認できませんでした。

魚と野菜を別々に育てた方が儲かるのでは?

私がアクアポニックスに対して最も疑問に感じているのが、この点です。

アクアポニックスのメリットとして、魚と野菜の両方を販売できることが紹介されます。

確かに、魚と野菜の両方を販売すれば、それぞれの売上を得られます。

しかし、これはアクアポニックスだけのメリットではありません。

魚と野菜を別々に育てても、両方の売上を得られます。

例えば、次の2つを比較します。

方法A:魚の養殖施設と野菜の養液栽培施設を別々に運営する。

方法B:アクアポニックスとして魚と野菜を一体化して生産する。

どちらも魚と野菜を販売できます。

そのため、アクアポニックスの経済的な優位性を判断するには、両者の設備投資額、運転費、収量、品質、利益を比較する必要があります。

アクアポニックスによって水や肥料の使用量を減らせたとしても、その節約額以上に管理費が増えれば意味がありません。

反対に、設備を共有することで初期投資や運転費を大幅に削減できるなら、アクアポニックスの方が有利になる可能性があります。

しかし、今回調べた範囲では、アクアポニックスが独立した養殖と養液栽培の組み合わせより、一般的に利益率や投資効率で優れていると証明する十分なデータは確認できませんでした。

アクアポニックスのビジネスで儲かるのは誰なのか?

ここまで調べてきて、もう一つ興味深いことがあります。

それは、農産物を生産する企業と、アクアポニックスのシステムを販売する企業では、収益の仕組みが大きく異なることです。

システム販売会社のビジネス

アクアポニックスの設備を販売する企業は、施設の設計や施工、設備販売、保守、コンサルティングなどによって売上を得られます。

設備を販売できれば、契約条件に応じて売上や利益を得られます。

一方、設備を導入した農園は、その後何年にもわたって魚や野菜を生産・販売し、投資した資金を回収する必要があります。

つまり、両者では投資回収の仕組みが異なります。

先ほど紹介した2015年の国際調査でも、設備、資材、コンサルティング、研修、観光などを販売している事業は、利益が出ている傾向がありました。

これは、アクアポニックスを利用する農園の経営と、アクアポニックスという技術を販売するビジネスを分けて考える必要があることを示しています。

もちろん、設備販売会社が必ず儲かるわけではありません。

しかし、設備を販売した企業が儲かっているからといって、その設備を導入した農園も儲かっているとは限りません。

SDGsや食育、観光で利益を得るビジネス

アクアポニックスには、農産物生産以外の価値もあります。

例えば、子ども向けの食育施設、企業の環境教育、観光農園、農業技術の研究開発などです。

こうした事業では、農産物販売以外の収入を得られる可能性があります。

私は、アクアポニックスをこのような用途で利用することには大きな可能性があると思います。

ただし、それは農産物を効率よく生産する技術としての収益性とは区別すべきです。

将来、アクアポニックスが儲かる可能性はあるのか?

ここまでアクアポニックスの課題を紹介してきましたが、将来的にも儲からないと断定できるわけではありません。

私は、次のような変化が起きれば、アクアポニックスの競争力が高まる可能性があると考えています。

水不足が深刻化する

水資源が不足し、取水にかかる費用が上昇すれば、水を再利用するメリットが大きくなります。

特に水不足が深刻な地域では、アクアポニックスの導入価値が高まるかもしれません。

ただし、通常の循環式養液栽培や閉鎖循環式陸上養殖も節水できるため、アクアポニックスだけが有利になるわけではありません。

養殖排水の処理費用が増加する

魚の養殖では、排泄物や残餌から発生する窒素やリンなどの処理が必要になります。

将来的に排水規制が厳しくなったり、排水処理費用が上昇したりすれば、養殖排水を植物に利用するメリットが大きくなる可能性があります。

ただし、アクアポニックスでも固形物の除去や水質管理は必要です。

植物を育てれば排水処理が完全に不要になるわけではありません。

専用の排水処理設備と、野菜を栽培して養分を回収する場合のコスト比較が重要です。

肥料価格が高騰する

肥料価格が上昇すれば、魚の排泄物から養分を供給できるメリットが大きくなる可能性があります。

ただし、魚の餌代も考慮する必要があります。

野菜の肥料を節約するために魚を育てる場合、魚の餌代や飼育費が、節約できる肥料代を上回る可能性があるからです。

そのため、すでに養殖を行っている企業が、発生する養分を野菜栽培に再利用する方式の方が合理的な場合もあるでしょう。

異常気象によって陸上養殖と施設栽培の需要が高まる

異常気象が深刻化すれば、天然魚の漁獲や海面養殖、露地野菜の生産が不安定になる可能性があります。

その場合、環境を人工的に管理できる陸上養殖や施設栽培の価値が高まるでしょう。

ただし、陸上養殖と施設栽培の需要が高まることと、それらを組み合わせたアクアポニックスが有利になることは同じではありません。

また、異常気象は施設の冷却費や災害対策費を増やす可能性もあります。

異常気象が進めば必ず儲かるわけではありませんし、異常気象が進まなければ儲からないということでもありません。

生産技術が進歩する

将来、ろ過技術や自動制御技術が発達し、設備費や管理費を大幅に削減できるようになれば、収益性が改善する可能性があります。

また、魚と野菜の水質を別々に管理する分離型アクアポニックスの改良が進めば、それぞれに適した条件で生産しやすくなるでしょう。

ただし、通常の養液栽培や養殖技術も進歩していきます。

アクアポニックスだけの技術が進歩するわけではないため、将来も他の生産方式との比較が必要です。

アクアポニックス産の野菜だけが高値で売れる

一般的な露地栽培、施設園芸、養液栽培、水耕栽培などで栽培された野菜よりも、アクアポニックス産の野菜が高値で販売できるようになれば、儲かる可能性があります。

「アクアポニックスがかっこいい! アクアポニックス産の野菜しか食べたくない!」という人が増えることが大切です。

アクアポニックスで儲かるためには何が必要なのか?

私は、商業的なアクアポニックスで利益を出すには、少なくとも次の条件が重要だと考えます。

生産コストを抑える

設備費、人件費、魚の餌代、電気代などを抑え、魚と野菜を低コストで生産することです。

特に通常の養液栽培や独立した養殖と比較して、設備共有や資源再利用によるコスト削減効果があるかを確認する必要があります。

魚と野菜の収量・品質を高める

魚と野菜の両方を育てられても、成長が遅かったり、品質が低かったりすれば利益は減ります。

そのため、それぞれの生育環境をできるだけ最適化し、高い生産性を実現する必要があります。

高値で販売できる顧客を確保する

アクアポニックスで生産したことに価値を感じ、高い価格で購入してくれる顧客がいるなら、経営上のメリットが生まれます。

ただし、販売単価は栽培方法だけでなく、品種、品質、鮮度、産地、ブランド、販路などによっても変わります。

アクアポニックスだから高く売れると考えるのではなく、実際に高値で購入してくれる顧客を見つけることが重要です。

魚と野菜を独立生産する場合より利益を高める

私は、これが最も重要な条件だと思います。

同じ資金を投資するなら、アクアポニックス、通常の養液栽培、通常の陸上養殖のうち、どの方式が最も大きな利益を生み出せるのでしょうか。

さらに、魚と野菜を別々に生産する場合とも比較する必要があります。

アクアポニックスだからという理由だけで導入するのではなく、複数の生産方式を比較して判断することが重要です。

アクアポニックスへの新規参入を検討している企業へ

アクアポニックスは、魚と野菜を同時に育てられる魅力的な技術です。

環境教育や食育、観光、研究開発など、さまざまな用途に利用できます。

しかし、農産物生産で利益を得ることを主目的とする企業は、慎重に検討する必要があります。

私は、新規参入を検討する企業には、次の点を確認してほしいと思います。

  • なぜ通常の養液栽培や陸上養殖ではなく、アクアポニックスを選ぶのか?
  • 魚と野菜を別々に生産する場合と、初期投資や収益性を比較したか?
  • 生産した魚と野菜の販売先は決まっているか?
  • アクアポニックスで育てたという理由で高く購入してくれる顧客はいるか?
  • 設備の減価償却、更新費用、人件費などを含めて採算を計算したか?
  • 同じシステムを導入した農園で、農産物販売によって長期的に黒字経営を続けている実績はあるか?

特に最後の質問は重要です。

アクアポニックスのシステムが何件販売されたかではなく、そのシステムを導入した農園のうち、何件が継続的に十分な利益を出しているのか?

これを確認することが、本当に経済性の高い設備かどうかを判断するうえで重要だと思います。

また、「アクアポニックスを興味を持った理由は、他の農園と差別化が簡単にできそうだから」ではないですか?

アクアポニックスが増えた場合、他のアクアポニックス農園と差別化ができますか?

消費者や中間流通業者はアクアポニックス産の野菜に価値を感じていますか?

皆さんの会社でなければ実践できない、競合優位性がある特殊な栽培方法ですか?(業者から設備を買えば誰でもできる栽培ではないですか? それは「差別化」と言えますか?)

このあたりも冷静に考えてみてください。

まとめ:アクアポニックスは儲かるのか?

今回は、アクアポニックスの収益性について、研究論文や商業農園、倒産・撤退した企業の事例などを調べてみました。

調査の結果、アクアポニックスによる商業的な生産・販売は、実際に行われていることがわかりました。

また、国際調査では黒字と回答した事業も確認されています。

一方、設備販売や研修、コンサルティングなどの収益が含まれている場合も多く、農産物販売だけで長期間安定して利益を出している農園の割合は不明でした。

大規模なアクアポニックス農園が閉鎖した事例も存在します。

ただし、これらの事実だけで、アクアポニックスは必ず儲からないと結論づけることはできません。

水や肥料の再利用、環境教育、食育、観光、研究開発など、アクアポニックスにはさまざまなメリットがあります。

そして将来的には、水不足や排水規制の強化、肥料価格の高騰、技術革新などによって、商業的な競争力が高まる可能性もあるでしょう。

私は、アクアポニックスを趣味や教育目的で利用することには賛成です。

一方、農産物生産ビジネスとして大規模な設備投資を行う場合には、慎重な判断が必要だと考えています。

農業ビジネスにおいて最も重要なのは、珍しい栽培方法を導入することではありません。

生産コストを小さくしながら、販売単価と販売数量を大きくし、十分な利益を得ることです。

魚と野菜を一緒に育てることが目的になってしまうのではなく、それによってどれだけ経営が改善するのかを考える必要があります。

アクアポニックスが今後、商業的な農業生産方法として広く普及していくためには、魚と野菜を同時に育てられることだけではなく、従来の養液栽培や養殖よりも高い利益や投資効率を実現できることを、実際の複数の農園の経営実績で示す必要があると思います。

それが実現できれば、世界中の農園はアクアポニックスに変わっていくでしょう。

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