今回は農業DXいちごセミナーの環境制御のケーススタディ【環境制御は農業経営の最適化の手段の一つ】を解説します。

農業DX、スマート農業、イチゴ栽培、環境モニタリング、環境制御に興味がある人は、ぜひ最後までお読みください。

今回は「環境制御を最大化させることは、実はマイナスかもしれませんよ」という話です。

イチゴ栽培で重要な環境要素

ここからは、「イチゴ栽培で重要な環境要素というのは温度だけではない」という話を少しさせていただきます。

左側の図でイチゴ栽培を中心に置いた時に重要な環境要素を周りに配置してみました。

例えば温度、湿度、日射量、日長時間、CO2濃度、肥料、水、土、このようなものがあります。

今回は温度にだけ注目してずっと話をしてきたんですけれども、本来は他の要素についても注目して環境制御を考えるべきです。

例えば、花芽分化と温度を優先して考えて温度を下げていった場合には、他の要素がマイナスな影響を受ける可能性があります。

何か1つの要素だけ注目してそれだけを最適化してしまうと、他のイチゴ栽培全体の要素で考えた時にマイナスな症状が発生をして、逆にイチゴ栽培が悪くなることがよくあります。

なので、イチゴ栽培についてはバランスを取ることが非常に重要です。

イチゴ栽培に環境制御が影響する要素

他にも環境制御は影響する要素があるという話をさせていただきます。

今回は温度と花芽分化の関係性についてずっと話をしてきたんですけれども、他にも色々あります。

1番は灰色カビ病と湿度、2番は糖度とCO2濃度、3番は糖度と土壌水分、4番は収穫量と日射量、5番は秀品率と給液EC、この辺りも関係してきます。

なので今回花芽分化と気温の関係にだけ注目したんですけれども、環境データにはもっと活用方法があります。

全部取り上げると複雑な話になるので、今回は花芽分化と気温にだけ注目しました。

いろんなデータがいろんな栽培の改善に使えますので、ぜひ皆さんもこの栽培の改善に取り組んでみてください。

イチゴ農園の農業経営で重要な要素

それからもう1つ注意点があります。

「農業経営で重要な要素は環境制御や収穫量だけではない」という話です。

左側の図で中央に経営を置きまして、その農業経営の中で重要な要素というものを周りに配置してみました。

収穫量、販売単価、売上、燃料費、人件費、資材費、資産、組織力など、他にもいろんな要素があると思います。

今回は花芽分化の影響による収穫量にだけ注目して話をしてきたんですが、しかし本来は他の要素も注目すべきだと思います。

なぜかと言いますと、やはり1つのことに注目して取り組みますとマイナスな影響を受けるものもあるからです。

先ほどの環境の話ともつながるんですけれども、農業経営においてはバランスを取ることが重要だと考えています。

例えば、収穫量を追求して花をたくさんつけすぎてしまうと、果実の品質が下がって販売単価が下がってしまいます。

収穫量を追い求めて燃料をたくさん使ってしまうと、燃料費が増えてコストが増えて利益が減ってしまいます。

このように一つのことを最大化させると、他の要素にマイナスな影響が現れます。

経営戦略として花芽分化を遅らせる選択肢もある

ここまではイチゴの花芽分化が遅れることは悪だと決めつけて、イチゴの花芽分化が遅らせないためには一体どうしたらいいのかという話をずっとしてきました。

しかし、実は経営戦略として花芽分化をあえて遅らせる選択肢もありますよという話を少しさせていただきます。

農業経営について簡単に考えてみますと、利益というのは売上から経費を引いたものだと言えます。

この売上については収量かける単価で決まります。

経費についてはイニシャルコスト足すランニングコストで決まります。

大雑把に考えるとこのように考えられます。

こう考えますと経営戦略として、必ずしも花芽分化を早くさせる必要はないと思います。

イチゴの花芽分化を早くしても利益が増えない可能性もある

これは理由についてなんですが、花芽分化を9月下旬にすると利益が増えない可能性もあるからです。

花芽分化を9月下旬にすることで、出荷が増えるだけでなく、単価の高い時期に出荷できるため、売上げが増える可能性が高いです。

ただし、花芽分化をするために温度を下げるための設備投資をすると、初期費用が増えます。

また、その設備を使うためには電気代や資材費、人件費などのランニングコストもかかります。

そのため、経費が増える可能性が高くなります。

利益は売上から経費を引いたもので決まりますので、売上の増加分よりも経費の増加分の方が大きければ、利益が減ります。

ですので、今回は花芽分化を遅らせないことを前提として話をしてきましたが、経営戦略として花芽分化を遅らせるという選択肢も十分にあります。

その辺りは皆さんの農業経営で、どこが重要なのか、売上げがどれぐらい上がるのか、経費がどれぐらい上がってしまうのか、この辺りを考慮してみてください。

そして、花芽分化の促進をするべきなのか、しないべきなのかというところを考えていただきたいなと思います。

農業経営はケース・バイ・ケースです。

「手段の目的化」に注意

最後になりますが、環境制御の手段の目的化について注意しましょうとお伝えします。

過去の動画でも紹介したんですけれども、「環境制御のために環境制御をするわけではございません」という話をしてきました。

「環境制御は利益の最大化のためにするもの」という風に考えております。

気づきを与えるために質問する場合があります。

植物を最も元気に育てた人が優勝する大会に参加しているんですか?

農業をされている方から「最も良い環境制御の設定は何℃ですか?」という質問をされた時に、私が逆に質問することがあります。

「あなたは植物を最も元気に育てた人が優勝する大会に参加しているんですか?」という質問です。

これは嫌みを言っているわけではなくて、本当にこれを考えてみていただきたいんです。

もし、皆さんがこの植物を最も元気に育てた人が優勝する大会に参加しているのであれば、植物にとって最も良い環境制御をすることが大事です。

植物が最もよく成長する環境制御をしてください。

ただ、実はそういう人はほとんどいないと思うんです。

じゃあ皆さんはどんな大会に参加しているのでしょうか?

農業経営は利益を最大化させて資産を増やしていく大会

日本のような資本主義社会で会社経営や起業を選択した場合、「農業経営は利益を最大化させて資産を増やしていく大会」だと考えております。

やはり会社経営や農業経営は利益を最大化させたり、資産を増やしていくということが重要視されるので、その前提に立って話をしております。

ただ、会社経営されている人はそれぞれ会社の経営理念というものがあります。

「うちは利益の最大化は追求していない」や「資産を増やしていくつもりはない」という方もいらっしゃると思います。

そういった方はまた別の理念のために経営されていると思いますので、今回のケースは当てはまりません。

ただ、多くの経営者の方が利益の最大化、それから資産の最大化を1つ目標に掲げていらっしゃいます。

環境制御は農業経営の最適化の手段の一つにすぎない

ですので、資産の最大化を目標として掲げた場合には「環境制御の最適化が必ずしもベストな選択肢ではない」という点をお伝えしておきたいと思います。

環境制御は農業経営の最適化の手段の1つであって、必ずしも環境制御しなければいけないというものではないです。

ここまで環境制御に関する記事をたくさん出してきて、環境制御は大事ですよという話をしてきました。

しかし、やはり農業経営の中では環境制御は一つの小さな要素でしか過ぎません。

他にも重要な点は色々あります。

そのため、環境境制御にばっかり囚われてしまうのは良くないです。

環境制御は農業経営を良くしていくという目的のための一つの手段でしかありません。

環境制御は手段だ、手段だ、手段だ!

これを忘れないでください。

環境制御を目的として捉えてしまうと、農業経営がうまくいかなくなります。

いちごハウスの室温が高くなった理由を分析まとめ

今回は環境制御は農業経営の最適化の手段の一つについて解説しました。

今回で農業DXいちごセミナーの環境制御についての連載は終了です。

他にも連載があるので、そちらを読んでみてください。

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